狂気の沙汰

 司馬遼太郎の濃尾参州記の中に、名古屋市緑区を評してこんな風合いの文章がある。
緑区は、丘陵、田園、叢林が多く、区名はその景観からつけられた。と思っていたが、じつはそうではなく、芭蕉が貞享5年、この鳴海の宿で詠んだ句『はつ秋や海も青田の一みどり』からとられたという説がある。緑区の区名がもしこの句に由来するとすれば、市政関係者の感覚はなみなみではない」
 司馬は「緑区」を絶賛しているといっていい。
 さて、来年の3月に合併を目指す愛知県知多半島の先端にある美浜町南知多町は新しい市の名前を「南セントレア市」にすることを決定したという。暴挙といっていい。だいたい「セントレア」って何語なのか。カタカナ語辞典で調べてもなかなか検索できなかったが、ようやくコンサイスカタカナ語辞典で「キク科ヤグルマギク属の草の名」であることがわかった。これで新しい市の「市の花」は「セントレア」で決まりだ。両町の合併協議会の委員は気でも触れたんだろうか。文化人あるいは郷土史家はメンバーの中にいなかったのだろうか。ほんの少しでも良識のある人物がいればこんな間抜けな名前にはならなかっただろう。
「こんな市名はもういらない!」(東京堂出版)の著者である楠原祐介氏も、かな書き地名は民族文化の破壊につなかると警鐘を鳴らしている。両町の合併協議会はもう一度、考えなおしたほうがいい。後世に大きな禍根を残すことになる。
 でも、この協議会、遷都麗空セントレア)市」という委員案を出していた。(おまえら暴走族か!)これほどおぞましい言語センスの連中なので、考えなおしてもまったく期待はできないだろう。単に「南知多市」でいいと思うのだが・・・
 司馬さんが彼岸で絶句しているに違いない。