今日の出来事

 11月7日、洋の東西で時を超えて愚行が始まった日である。
 日本では、貞享2年(1685)に時の将軍徳川綱吉が、天下の悪法といわれる生類憐れみ令と総称される政策の第一段を発令した。徳川實紀にはこうある。
「七日令せられしは 鳥類 貝類 海老等 いまより後庖厨に用ふべからず しかりといへども公卿に饗賜はるときは この限にあらずとなり」
 綱吉という独裁者は、実は勤勉で真面目な男だった。ただクソがつくタイプだったので「動物愛護しましょうね」という当初の発想が暴走し「動物をいじめたらみんなしばき倒しちゃるけんね」という本末転倒な思想に窯変してしまったのだ。このため江戸の人々は不自由な生活を強いられることになる。
 時代は下って大正6年(1917)のことである。ペトログラード(現サンクトペテルブルグ、かつてのレニングラード)で、レーニン率いる労働者、農民が武装蜂起してソビエト政権を樹立した。その後、74年の永きにわたり共産主義という嵐が吹き荒れ、「共産主義の黒書」によれば、ソ連2000万人、中国6500万人、ベトナム100万人、朝鮮200万人、カンボジア200万人、ラテンアメリカ15万人、アフリカ150万人の人間が犠牲になっているという。21世紀になっても、未だに北朝鮮ではその亡霊から抜け出せないでいる。黒書の著者クロトワは言う。「共産主義は政権を獲得した所で例外なくテロを生みだした」と。
 こうやって二つの歴史的事項を並べてみると、いかに綱吉の悪法のかわいいことか。庶民は愚法をあざ笑いながら野良犬を蹴飛ばし、ゴキブリを踏んづけていたに違いない。綱吉独裁の元禄時代か、スターリン支配のロシアか、どちらに住みたいかと問われれば、間違いなく綱吉の元禄時代である。
 それにしても20世紀の日本人が誤まった選択をしなくてよかった。この一事をとっても日本人がいかに賢明であったかという証明になる。