向う岸

 彼岸である。
「暑さ寒さは〜」というけれど、夕刻に墓参りにいったのだが、曼殊沙華の咲き乱れる土手の方から吹く風は秋だった。
 さて彼岸。お彼岸、彼岸会ともいう。
「お彼岸ってなあに?」と子どもに質問されて「うっ!」と詰まってしまった。なんて言えば子どもにうまく説明できるのだろうか。
「彼岸とはね、春分秋分を中日にして、その前後3日にわたる1週間の法会のことをさす彼岸会のことなんだ。この期間中にお寺の彼岸会に参加したり、お墓参りをしてご先祖様の供養をすることを言うんだ」
「わかんな〜い、ほうえってなに?ひがんえってなに?くようってなぁに?」
「ごめんなさい」
 昨年の夏に友人が急逝した。つい最近、墓に納骨されたという話を聞いていたので、ご先祖様のついでに参ってやろうかと、墓を探したのだが見つからなかった。
「来なくていい、お前にもっともらしい顔で拝まれたくねえんだ」
 負けず嫌いだった悪友は草葉の陰でほっとしているのかもしれない。
 ちょうど季節の変わり目に線香の揺らぐ煙を見つめながら少しだけ敬虔な気持ちになるっていうのも悪くない。天は高くなり風は心地よくなってくる。いよいよ秋本番、仕事なんかしている場合ではないな・・・

 因みに彼岸会は、崇道天皇早良親王)の霊を慰めるために行われたものが最初で、以降、皇霊祭として朝廷で行われていたものが、江戸時代になって庶民の間に年中行事として広まった。元は神道だったものが仏事になっている。