向田邦子

 昭和56年、テレビで「シェイプパンツ」のコマーシャルを見て鼻の下をのばしていた時のことだった。「台湾航空の旅客機が墜落した」というテロップが入った(ような記憶がある)。
 後で知ったことだが、この旅客機には作家の向田邦子さんが搭乗しており、彼女を含む110人が死亡した。
冬の運動会」、「幸福」、「阿修羅のごとく」、「寺内貫太郎一家」などなど、数多くの名作を残して向田さんは南の空に消えた。作家としては劇的な最期だった。向田さんのことだから、墜落する機体の中でもその時の状況をつぶさに観察していたことだろう。「これで一本書けるわ」くらいのことは思っていただろう。
 ある人が、向田さんと時期を同じくして、台湾航空に搭乗した。乗り込んだ機体を見て、あまりのオンボロさに、「こりゃ墜落するぞ」と思ったそうだ。冗談だとは思うが、「足下から地面が見えそうなくらい古かった」そうである。
 その一週間後に墜落があった。
 今日は23回目の命日である。