忙中閑あり

 奥三河の山里に避暑というわけではないけれども、盆休みを利用して墓参かたがた、昨日今日と2日間出かけていた。
 北設楽の山懐にいだかれた小さな過疎の村の知人の家は、ことのほか長閑だった。
 本を何冊か持っていったので、川のせせらぎが聞こえる縁側で座布団を枕にゴロリと横になった。冷えた缶ビールまであって、極楽極楽。下界の疲れがどっと出たのかついうとうとしたらしい。
 ヒグラシの声に目を醒ますと、ずいぶんと日が傾いていた。ふと膝に目をやると赤とんぼがとまっている。気配を感じたか赤とんぼ、宙に浮いたかと思えば軒先の風にのって畑のほうに消えていってしまった。
 むむむ、あのとんぼずっとおっさんの寝顔を見ていたのだな。かなり趣味の悪い牝と見た。

 肩に来て人懐かしや赤蜻蛉 漱石