毒の話

 いきつけの飲み屋の親父は頑固だが旨い料理を食わせてくれる。親父の漬けた塩辛の若いのも旨いし、小あじの南蛮漬けもさっぱりしていておいしい。冬はなんといっても河豚が旨い。てっちり3人前を4人で囲むと、丁度、適量で最後の雑炊までぴったりとお腹に収まる。
 店は清潔だがぱっとしないから、始めての人間を連れていって河豚を注文すると、必ずといっていいほど「河豚を食べさせてくれるの?」という期待の表情と「こんな店で大丈夫?」という不安の表情が、微妙に錯綜する。そんな新人を冷やかしながら河豚の白身をポン酢に泳がせると口に放り込む。そして熱燗をキューっと……。
 いけないいけない、朝から、一杯、飲みたくなってしまった。今朝の新聞で、「長崎大学、養殖河豚の肝の無毒化に成功」という記事をみたからである。今朝のところはぐっと我慢することにしよう(あたりまえじゃ!)。
 それにしても、河豚に毒がなくなったら、気の小さい仲間の複雑な表情が見られなくなってしまう。残念だ。でもやっぱり安心して(実は自分も少々の不安を抱えながら河豚を突ついていたのだが)食べられるほうがいいよね。なにしろ河豚はおいしいからネ。
 長崎大学に、是非、抜いてもらいたいものがある。それは政治家の舌である。あの舌には毒がある。やつらの毒舌のおかげでどれだけの国民が被害を被っていることか。「責任をとる」といっても、せいぜい今のポジションから身を引く程度で、議員を辞職するとか、あるいは昔の侍のように「腹を切る」という徹底した責任のとり方ではない。根本的に甘い。
「首をとった」「首をとられた」というけれど、福田さんの首はちゃんと胴についている。辞任して首相官邸を出る福田さんの表情は、晴れ晴れとして首のない人間の顔ではなかった(首のない人間には顔はないけど)。もっと殊勝な顔でフェードアウトしなさいよ。
 彼も河豚に負けず劣らず毒を多量に持っている。父、赳夫からつながる世襲猛毒である。その毒は国民をいじめるために使うんじゃなくって、外交にいかしてもらいたいものですな。(せっかくのおいしい河豚の話が、不味い政治家の話になってしまった。反省)