巣立ちのころ

北の国から」というドラマがあった。北海道富良野の原生林の中で、父と兄妹が助け合いながら、時には反発しあいながら成長してゆくという、足掛け20年にも及ぶ大河ドラマだった。その物語の中に「初恋」という一話がある。ラストで息子の純が中学校を卒業して、東京の夜学へ進む決心をする。このため父は、旅費を節約するために、長距離トラックの運転手に頼み込んで便乗させてもらうことになる。
 東京に向かうトラックの中のシーン。

  運転手、フロントグラスの前に置かれた封筒をあごで指す。
純「ハ?」
運転手「しまっとけ」
純「・・・何ですか」
運転手「金だ。いらんっていうのにおやじが置いてった。しまっとけ」
純「あ、いやそれは」
運転手「いいから、お前が記念にとっとけ」
純「いえ、アノ」
運転手「抜いてみな。ピン札に泥がついている。お前のおやじの手についてた泥だろう」
  純。
運転手「オラは受取れん。お前の宝にしろ。貴重なピン札だ。一生とっとけ」

 今は亡き古尾谷雅人の名科白が効いて、感動的なラストシーンだった。

 私事だが、昨日、長男が大学進学のため上京した。残念ながらドラマほど感動的な別れとはならなかったが、それでも旅立ちの朝は寂しかった。
「がんばれよ」と言って、握手をした。長男の手に力が入っていなかったので、
「力のねぇやっちゃなぁ」と再度、手を差し出すと、さっきよりちょっとだけ強めに握り返してきた。
 長男は、何もしてやれないうちに成長し、巣立っていってしまった。あっという間だった。光陰はひかり号より疾かった。幼かった子はいつのまにか大人になって、快晴の空の下、なんの屈託もなく新幹線に乗りこんでさっさと上洛してしまった。不甲斐ない親父をホームに置き去りにして。
 ホームを降りながら、なにげなくポケットに手を突っ込むと、封筒が手に触った。出してみると「餞別」の封筒だった。泥こそついていないがピン札が2枚入っている。いけない、渡しそこねてしまった。(カムバーック!シェーン!)