司馬は漢(おとこ)の典型を書きつづけた

 噂の真相休刊号で佐高信氏が司馬遼太郎を「筆刀両断!」している。
 司馬は、短編「奇妙なり八郎」で、幕末の志士清川八郎を「無位無冠の浪人のくせに天子まで扇動した幕末の志士は、おそらく清川八郎をおいていないだろう」と書いている。そのことを取り上げて佐高氏はこう評した。
「司馬にとっては『無位無冠の浪人』は非難の言葉なのである。ジャーナリストとして私はそれを誇りとするが、天皇大好き人間の司馬には『無位無冠の浪人』は『無頼の徒』つまりゴロツキに見えるのだろう」
 違うな。「奇妙なり八郎」のこの部分は、明らかに清川を誉めている。この軽躁な志士を愛している。司馬はけして英雄豪傑伝ばかり書いていたわけではない。梅棹忠夫が言う。
「私は司馬遼太郎の本領といえば、むしろ民衆に根ざしたものの考え方にあると思っています」
 元来、司馬は無位無冠の竜馬が好きだった。その竜馬にこう言わせている。
「偏見を持つな。相手が幕臣であろうと乞食であろうと、教えを受けるべき人間ならおれは受けるわい」
 司馬遼太郎は、残念ながら佐高氏が言われるほど浅薄ではないし、確かに小泉純一郎菅直人は読者だったのだろうが、多くの国民、庶民が司馬を愛読していたことは間違いない。この二人や経済人のファンだけをとらえて「一言で言って司馬ファンは浅い」と、断じるのは、独断に過ぎる。
「司馬ファンに本誌(噂の真相)の愛読者はいない」と、これまた根拠もなく断定しておられるが、少なくともここに司馬ファンであり噂の真相の読者がいることは事実なのだ。
 余談ながら、佐高氏については日垣隆の「偽善系2」に詳しい。また佐高氏の著作「タレント文化人150人斬り」などは、佐高氏の性癖がよく見えるので面白いですよ。