夕べ、午後8時から、NHK大河ドラマの『いだてん』を観る。なんといってもショーケンの最期の出演となった回だからね。
思わず、ショーケンの出演シーンをシナリオで起こしてしまいましたぞ。長いです。
『いだてん』第25回
治五郎(役所広司)らが体協本部に集まり、オリンピックの渡航費用の工面に頭を悩ませている。やけになった治五郎が「オリンピック参加を止めよう」と言い出したところに田畑政治(阿部サダヲ)が6万円の大金を風呂敷に包んで持参している。
○体協本部
田畑が治五郎の左に座っている。
田畑「(ケロッと)若者のために使うと言ったらくれました」
治五郎「誰が?」
田畑「高橋是清」
○朝日新聞記者室
緒方竹虎(リリー・フランキー)が部下に田畑の行方を聞いている。
電話が掛かってくる。取る記者。緒方につなぐ。
緒方「はい、もしもし」
○洋室
豪華なシャンデリア。その下にやはり豪華なテーブル。
そこに案内をされて入ってくる田畑。
声「あんたとこの若い者が来とるんだがね」
○記者室
耳に受話器を当てている緒方。
緒方「はは、せわしないのですか?あつ苦しいのですか?」
○洋室
コーヒーをズボンにこぼす田畑。
田畑「あっつ!あつ!」
と、飛び跳ねる。秘書があわててハンカチで拭こうと手を出す。
電話をしている髭をたくわえた眼光鋭い老人(萩原健一)の横顔。
是清「せわしない」
○記者室
受話器を耳に当てている緒方。
緒方「ああ・・・じゃあ田畑ですね」
○洋室
テーブルを拭いている田畑。
緒方の声「かわいがってあげてください・・・失礼ですけど、どちら様?」
是清「高橋是清だ」
○記者室
受話器を耳に当てている緒方、居住まいを正す。
手元の新聞。「高橋藏相 食料政策の辯」の記事見出し。
○洋室
是清、受話器を耳に当てている。
緒方の声「おっしゃるとおりに、つまみ出してください」
是清「わかった」
掛け時計の「時の鐘」。
『いだてん』第26回
○洋室
高橋是清が洋室に入ってくる。
N「高橋是清。総理大臣を2度、大蔵大臣を6度もつとめた、まさに大物中の大物。さすがの田畑さんも今回は借りてきた猫……かと、思いきや」
ソファーにどっかりと座っている是清。
跳ねまわりながら話す田畑。
田畑「さあ大臣、ハワイの英雄カハナモクと、我が国が誇るクロールの達人高石。どっちが勝ったと思います?大臣!」
戸惑ったような表情の是清、なにかを答えようとするが、それを遮って。
田畑「違う!そう!違う!高石が勝ったんです!」
N「相変わらずの野良猫・・・いや野良ガッパです」
田畑「日本チームが世界新記録。見て大臣」
ストップウオッチを是清の眼前に突き出す。
田畑「9分38秒2」
是清「・・・田畑君と言ったね。私はオリンピックなどに関心はない。加納君が大騒ぎをしとったから、名前ぐらいは聞いたことがあるが(立ち上がる)、だが、スポーツと政治は、無関係(隣室にゆく)、これが私の信条だ」
○隣室
入ってくる是清。
テーブルの上に並べられたブランデーをつかんでコルク栓を抜く。
ブランデーを小ぶりのグラスに注ぐ。
是清「だから、政府は金も出さんし、口も出さんでやってきた」
是清を追って隣室に入ってくる田畑。
田畑「加納さんと僕らは違いますよ」
是清「ほう・・・」
是清、グラスを口に運び、一口飲む。
田畑「古いんですよ、体協の考え方は。もう寄付で賄える規模じゃないんです。富める国はスポーツが盛んで、国民の関心も高いです」
○洋間
是清、ブランデーのグラスを持って洋間に戻ってきて、ソファーに座る。
是清を追って戻ってくる田畑もソファーに座る。
田畑「先生方も、スポーツを政治に利用すりゃあいいんですよ。金を出して口も出したらいかがですか?」
是清、一口ブランデーを飲む。
是清「私が断ったらどうするつもりだ」
田畑「(微笑み)そりゃ考えませんでしたなぁ。大蔵大臣の上は総理ですか?」
是清、ゆっくりと笑だす。
是清「ふはははははは・・・。君は、怖いものなしだな」
つられて笑う田畑。
田畑「どうせ30で死ぬんで・・・」
是清、飲んでいたグラスを口から外し
是清「なにぃ?」
○バー「ローズ」(回想)
カウンターの向こうのママ(薬師丸ひろ子)
ママ「30で死ぬと出ています」
田畑「え?30??じいさんが55で、おやじが43、で、オレが30?」
○洋室
田畑「冗談です」
是清「でぇ・・・そのオリンピックとやらは、お国のためになるのかね?」
田畑「お国のためには、なりませんな」
是清「ならんかね」
是清、再び立ち上がり隣室へ。
田畑も立ちあがって、是清についていく。
田畑「しかし、若い者には励みになります」
○隣室
入ってくる是清。ついてくる田畑。
田畑「日本の若者が世界の舞台で飛んだり跳ねたり泳いだりして西洋人を打ち負かす。その姿を見て、オレも私も彼らのようにがんばろうと立ち上がる。その若者の力を、国のために生かすも殺すも先生がた次第でしょうな」
掛け時計の「時の鐘」。
グラスを口に運ぶ是清、一瞬躊躇するがグラスの酒を飲む。
ショーケンの高橋是清、よかったですね。高橋是清風なんだけど、ショーケンだった。戸惑った表情や、しゃがれた声など、『傷だらけの天使』の修そのままだった。それでも、高橋是清のようにも見えたから、それはそれでいい。
日本は、貴重な俳優を失った。70歳のショーケン、80歳のショーケンを見てみたかった。