星野仙一さん

 さすがに朝日でもトップに持ってきた。社会面も、地方版も、スポーツ欄も、星野星野星野星野一色である。
 昨日、星野仙一さんの訃報が流れた。あれだけ人気のあった人だ。今日の新聞がそうなることは当然といえよう。
 ワシャはとくに野球が好きだというわけではないけれど、中日ドラゴンズで活躍をした星野さんは、なんといっても中央の巨人軍の王・長島を目の仇にして頑張る地域ヒーローとしては頼もしい存在だった。それに王さん、長島さんに比べると優等生ではなかったところもよかった。怒る時には感情をむき出しにしていたのも好感が持てた。いかにも根に持たなそうな人柄もよかった。
 人となりや歩んでこられた経歴などは新聞に詳しく載っているからそちらに譲ることにして、ワシャは、本棚に並んである星野さん関連本から、星野さんらしい言葉を拾いたい。本は5冊。星野さんの著作が以下の4冊。
『迷ったときは、前に出ろ!』(主婦と生活社
『夢 命を懸けたV達成への647日』(角川書店
『やるだけやったら、それでいい。』(PHP)
『星野流』(世界文化社
 別著者のものが1冊。
戸部良也『熱将星野仙一』(中央出版

 共通しているのは「夢」「迷ったら前に出ろ」ということ。それでは「燃える男」星野仙一さんの名言を。少し要約して並べてみますね。

「つらいの苦しいの、大変だの、むずかしいの、損や得や、そういうことをいう前に大事なのは覚悟、自分自身に対する覚悟だ。覚悟する腹さえ決まれば、あとは迷ったら前へ。苦しかったら前に。つらかったら前に」
「叱るときは、ものごとをむずかしく考えたり、複雑なことはいわない。大事にしていることは、人間としての基本の厳守と徹底、減点主義をとらず、得点主義をとる」
「思ったことはストレートにいい、心の内や考え方もオープンにして上下一体になって取り組んでいく、戦っていく時代だ。上にいる人間が玉虫色の発言をしたり、陰口をきいたりすれば部下の判断力は生まれてこないし、部下の心理を複雑にさせたり不愉快にさせたりするだけだ」
「どんな相手に対しても配慮はするが遠慮はしない」
「叱った分、そいつには、再度のチャンスを必ず与えてやるということだ」
「絶妙のタイミングとは、その場で即座に叱る、ということだ」
「愛を持っている限り、どんなに厳しく指導しても、部下の失望や不信を買うことはないのではないか」
「叱責ひとつ、処罰ひとつ与えるにしたって、選手たちの間違いを正したり、プライドを目覚めさせ、意欲を刺激して発奮してもらうのだ狙いだから、なにか失態を演じても選手のプライドをあまりに傷つけ、やる気をも失わさせるようなことになると、その意味は消えてしまう」
「中国に『一怒一老』ということわざがある。怒る、叱るということは気骨が折れて人を早く老いさせてしまうという意味で、疲れるし、嫌われるし、不愉快でいやなことですから、私だって本当はあんまりしたくはないんですよ。でも、大人にだって子供にだって、人間には誰だってひとりやふたりは怖い人間がいたほうがいい、必要なんだと、わたしは思っているんです。怖い人がいないと人間は放埓になる、不遜になる部分があるんです」

 星野さんがどの本でも言っておられたのが「人を叱る」ということである。そういった意味で言えば、2日前に紹介した『友情』に書かれていることは、星野さんが言われていたことばかりであった。
 星野さんは熱い男として、部下を叱咤してきた。そのことで実績を積んでこられた。上記の最後に並べた発言でも「怒ることは老いを早くする」と言っておられるが、享年70才というのは、まさにご自身の言を実践された観がある。上に立つということは、いかに上手に叱るかということに尽きる。まずそこを身に付けなければ上に立ってはいけない。星野さんの著作を久し振りに読み返してみて、そんなことを思った。