危険な地名

 今回の台風で阿南市加茂谷中学校が水没した。
http://e-school.e-tokushima.or.jp/anan/jh/kamodani/html/htdocs/index.php?page_id=0
 この中学校は2014年の大雨でも水没している。この地域は水害の常襲地帯と言っていい。そのことは「加茂谷」という地名が明確に示している。谷は「谷」ですよね。加茂は「蒲のある水辺」のことで、そもそも水の漬くところ、川の氾濫原を示す地名である。
 同じく2014年の8月に、広島市安佐南区八木上楽寺で土砂崩れが発生し、大きな被害を出した。この「上楽寺(じょうらくじ)」という地名が問題である。元々は「蛇落地」(じゃらくち)と呼ばれていた。前近代は土砂崩れのことを「蛇落」と呼称していたのだ。土砂崩れの痕は、まさに大蛇がうねって地に降りてきたようにみえる。そのことを知っている地の人々は、そのまま「蛇落地」と呼び、その土地を忌避していた。その先祖から戒めを、おそらく金銭に目が眩んだ人間が、住宅地として高く売るために「蛇落地」を「上楽寺」に改めてしまった。このことについて磯田道史さんの言を引く。
《この時代の日本人は技術と経済成長の信者であった。自然はコントロールできると、人間の優位を驚くほどに信じた。土砂崩れにしろ、原発事故にしろ、この時代の思想のツケを後代の我々は、いま払っている。》
 そういった意味から阿南市は地名を変えていないので、賢明と言える。

 地名を変えるということについて、池波正太郎がこんなことを書いている。
《少年のころ、私が住んでいたのは浅草の永住町であった。この町名はいま[元浅草]という、吐気をもよおすような町名に木端役人どもが変えてしまった。》
 地方に住むワシャには「永住町」がいいのか「元浅草」が吐気をもよおすのか判らないが、池波さんには歴史、文化、伝統のある古い地名をあっさりと捨ててしまうことに大きな抵抗があったのだろう。