梅雨の合間にちょいとお参り

 昨日は仕事だった。とある講演会の司会をやっていたのだが、講師が夜郎自大で困ったものだった(笑)。
 仕事を終えてその足で、悪友の家に行く。悪い友人の家は職場からさほど遠くない。自転車で5分も走れば着いてしまう。だけど、その家には友人はもういない。11年前の昨日、出張先で突然死んでしまったのだ。

 ご家族には事前に行くことを伝えてある。というか、11年の間、毎年この時期にはかならず、何人かの仲間と誘い合わせて仏前に参っているので、ワシャが訪ねるのは、その家では梅雨の合間の風物詩のようになっている。だからご家族も「いつでもどうぞ」ということで承知してくれている。
 迎えてくれたのは、お母さんとお嫁さんと娘さん二人の合計四人である。一年の無沙汰を謝し近況などを話しているうちに、こっちのメンバーも揃ってきて、「それでは」ということでお参りをさせていただく。
「おい、悪友よ、お前はのんびりとしているか。こっちは五十を過ぎて、体はガタピシだぜ。こういうご時世で仕事もなかなか大変だ。お前がいないから、お前の分まで働かされているぞい……」
 などと、口には出さず、心の中で愚痴をこぼす。悪友は、若いまんま、仏間の鴨居の上で笑っていやあがる。
 悪友は読書家だった。とくに好きなのは海外ミステリーで、ヤツがその手の本を近くの図書館でオーダーして読んでいたことは、けっこう有名だった。だから二人のお嬢さんも本にまつわる名前にしたくらいだ。
 でね、そんなこともあるので、この11年間お参りに行くたびに、二人の娘に千円の図書カードを渡すことにしている。
「このカードで読書家だった父親をしのんで本でも読んでね」
 というささやかな気持ちである。最初の頃はよかったんですよ。娘が小学生だったからね。でも、最近は大きくなっちゃって、下の娘が大学一年生、上の娘は今年四大を出て就職するとのことで、そんな大きな子に千円の図書カードでもないのだが、ずっとそうしてきたので今年もそれを渡してきた。

 悪友の足にまとわりつくよう遊んでいた少女たちは、いつの間にか大人になった。