大一番

 今日から春場所が始まる。だけど最近、テレビ桟敷にも実際の桟敷にも座ることが少なくなった。頑張っている力士たちには申し訳ないのだけれど、本場所があまり面白くなくなってきたのだ。
 平成6年11月場所千秋楽を覚えておいでだろうか。覚えてないっすよね、というか知らないですよね。

 横綱の曙と大関貴乃花の一番である。立ち合い、曙の強烈なかち上げをしのぎ、貴乃花左下手を深く差して、青房下(北東)まで一気に寄っていく。ここで曙、徳俵で踏みとどまり右上手を取る。その上で貴乃花を土俵中央まで押し戻して、かいなを二度ひねる。その度に貴乃花は大きく前のめりになるのだが、強靭な右足を支え棒にして耐える。貴乃花がバランスを崩す都度、場内からは黄色い悲鳴が起こった。このころはギャルも国技館に足を運んでいたんだね。
 なんとか曙のかいなひねりを辛抱した貴乃花は下手を深く差したまま黒房下(北西)まで曙の巨体を寄っていく。曙の腰は伸びている。このまま寄り切るか……。ここでまた徳俵に助けられた曙は、三度目のかいなひねりを見せる。ここでも貴乃花に対して悲鳴のような声援が上がる。このかいなひねりの時に、貴乃花の右手が曙の前みつをつかむ。左の下手は深く差しているので、ちょうど曙の右脇腹にくいついた格好だ。小兵の力士が大きな相手と取り組む時に目指すべきいい形になった。二三度の双方の揺り戻しがあって、土俵中央でがっぷりのまま動かなくなった。
 しばしの静止の後、上手下手とも引いた曙が一気に寄りを見せる。こうなると曙に比較して軽量の貴乃花は分が悪い。まず向こう上面に寄り、体を入れ替えた逃げた貴乃花を追い詰めるように正面に寄ってくる。曙の巨体が貴乃花に覆いかぶさるようだ。ここで俵に詰まった貴乃花、体を大きく左へかわす。曙の突進力を利用して右手で上手投げを繰り出す。曙の巨体は宙に浮き、そのまま土俵下へと落ちた。
 貴乃花はこの一番で2場所連続の全勝優勝を決め、横綱昇進を決定づけた。

 なにしろ大一番だった。テレビ桟敷で観ていても、手に汗を握り、つい声を挙げて声援をしてしまう、そんな興奮があった。
 ちょうど若貴が関脇、大関横綱と昇ってくる時期であり、ハワイ勢がいい意味でのヒール役を演じてくれた。
 今、当時の映像を見返しているのだが、このころの取り組みに比べて、今の上位陣の取り組みの薄っぺらなことと言ったらありゃしない。どうも、勝つということにばかり重きが置かれ、勝ち方がつまらなくなっているのである。「勝てばいいんだ」という意識が取組から見えてしまう。これは朝青龍以降のモンゴル力士が持ち込んだ大陸の勝ち方と言ってもいい。これが大相撲の魅力を半減させているのだと思う。
 幕内42人中、外国人力士が14人いる。外国人力士が悪いと言っているわけではない。日本人が出てこないのだからしかたがないのだが、それでも文化としての相撲を理解してもらって、勝ち方、負け方をもう少し考えて相撲を取ってくれないかなぁ。
 どちらにしても、日本人横綱が早く出てきてほしい。それが大相撲の隆盛につながるはずだ。