Zero fighter

 子供の頃、熱が出たりするといつも同じ夢を見た。場所はよくわからないのだが、急ごしらえの掘っ立て小屋のようなものがジャングルを背景にして建ててある。そこが何らかの軍用施設であることは、自分も含めて登場する人物たちが軍服をまとっていることから、そう理解した。自分はそこに軍用車両で仲間とともに乗りつけて、施設と反対側に広がる飛行場にいならぶ戦闘機の一つに乗ったのだった。それが零戦であったかどうかは判然としない。
 夢の続きは、広い海の上を単機でゆーらゆーらと飛んでいるものである。それが突然、真っ白になって夢は終わる。ただそれだけの話なんですけどね。
 昔、若かったころに、私鉄の駅前に大ママが経営するリーズナブルなスナックがあって、大ママは大ババだったが、かわいいカウンターレディもいたので、ツレと足しげく通ったものである。その日は二軒目か三軒目にそこに寄った。随分と酔っていた。ツレたちはカウンター越しにネーチャンたちをからかったりして盛り上がっている。ワシャはというとカウンターの隅で、大ママを相手に一人、いつも見る夢の話をした。大ママはけっこう真剣に聴いていた。大ママの話では、終戦時に20歳くらいだったというから、もろに戦争を(内地ではあるが)経験してきたわけだ。
「一人っきりなんですよ。周りを見回しても海ばっかりでポツンと飛んでいるんです」
 それはとても孤独な夢で、ときには目覚めたときに涙をながしていることもあった。そのことを大ママに告げると、大ママも泣いてくれた。
「あんた、ホントに戦闘機乗りの生まれ変わりかもね」
 今なら「宮部久蔵です」とか混ぜっ返すところだが、純情だったんだね。お互い酔っていたこともあって、カウンターをはさんで肩を抱き合って泣いたものである。大ババとね(笑)。