松竹大歌舞伎

 土曜日に愛知県扶桑町に行った。イベントを3つも打って、へとへとになりながらも電車を乗り継いで、尾張の北の端っこまで足を運んだ。到着駅の扶桑から1700mも歩けば木曽川ですぞ、木曽川
 三河人から言わせてもらえば、木曽川は観光で来るところで、夕方からやって来て日帰りするところではない。本来なら木曽川べりの観光ホテルに泊まって、鵜飼船を繰り出して、綺麗どころと一杯やっているところでござる。
 なんでそんな遠くまで足を運んだのかというと、見出しの「松竹大歌舞伎」が扶桑文化会館に巡回してきたからである。今回は座頭を中村吉右衛門鬼平がつとめる。脇を固めるのが、又五郎歌六芝雀錦之助。それに中村歌六一門の若手が4人出演する。これが楽しみだった。
 狂言は、岡本綺堂原作の「番町皿屋敷」、三代目又五郎、四代目歌昇の「襲名披露口上」、それに「連獅子」の3本である。内容的には、いかにもドサ回りの演目といったところだが、これがなかなか良かった。なにしろ吉右衛門の存在感は大きい。今や歌舞伎の大看板だ。鬼平で鍛えたこともあって、芸がこなれている。吉右衛門の演技と比べれば、テレビドラマを賑わすアイドル俳優など学芸会の園児だね。
 それに又五郎ががんばっている。息子の歌昇との連獅子は、これでもかというほどのヘッドハンギングだった。又五郎、ワシャより2つ上なのだが、あれは辛かろう。ワシャならできない。それだけに観客の感動を呼んで、会場は拍手喝采だった。
 ただ、口上がいけない。ドサ回りだから、人数が少ないことはやむを得ないと思う。吉右衛門が座頭なので仕切りになる。そこから順に口上を述べていくのだが、若手の役者に粋な口上はのぞむべくもない。そこは熟練の役者がご当地ネタとか、楽屋話を披露して盛り上げなきゃ。ところが錦之助も真面目だし、芝雀も硬い。歌六も技がない、ということで、ずいぶん静かな口上になってしまった。ここに今は亡き勘三郎とか、富十郎などが列座していれば「ドッカーン!」と笑いをとるところなのだが、そうもいかない。
 さて、その大人しい若手のことである。今回の収穫はここにあるといってもいい。四代目歌昇である。平成元年生まれの24歳である。なかなかの歌舞伎顔で、連獅子の隈取がよく似合う。24歳にしては、舞も上手い。声もよく通る。今後の精進次第では、いい役者になりそうだ。連獅子のあい狂言に、歌昇の弟の種之助と、歌六の長男の米吉が登場する。狂言を見慣れているワシャには、まだまだもの足りないものだったが、それでも二人の奮闘ぶりはよくわかった。それに両者とも、父親よりもいい歌舞伎顔を持っている。こりゃぁ母親が良かったんでしょうかね。これは楽しみな若手が出てきましたぞ。
 もう一人、同世代の役者で中村隼人が出ていたが、これがいただけない。テレビなどではイケメンの歌舞伎役者として紹介されていたが、そう、素面なら彫が深く、イタリアあたりにでも居そうないい男である。しかし、これが白塗りをすると、目が奥目になり、頬骨が出ているので、貧相な顔になってしまう。もう少し太ればいいのだろうが、今のところ舞台映えのする顔ではない。
 残念ながら列車の遅れで、隼人の舞台は観られなかった。縁がないのかもしれない。