怖いことがありました

 ワシャは、神、仏、狐狸、妖怪の類を信ずるものではない。深夜、墓場の運動会も怖くないし、静かだから墓場の近くに家を建てたいと思っているくらいだ。
 でもね、夕べの夢が怖かった。あまりにも怖すぎて、その内容は口にできない。とにかく、怖かったので、自らを奮い立たせるために、夢の中で「あああああああああ!」と思い切り叫んでしまった。それが、現実にワシャの声帯から発せられたからたまらない。それでなくても、ワシャは声がでかいと言われている。ワルシャワの「大音声」と言われているくらいだからね。
 草木も眠る丑三つ時に、突然の絶叫である。もちろん叫んだワシャも、その声のでかさに驚いて目を覚ましたが、別の部屋で寝ていた家人たちも、その声に気がついたとのことだった(翌朝の調査による)。
 
 その夜は、午後11時頃に布団にもぐりこんだ。お酒のせいもあってコトンと寝てしまった。熟睡パターンである。完全に体は眠っていた。体温も下がっている。それが突如フルスロットルで大声を張り上げたのだ。エンジンなら焼きついたかもしれない。どこかの血管が切れているのではないかと心配になったが、大丈夫そうだった。
 ワシャは寝るときに灯火をすべて落とす。窓にも厚いブラインドカーテンが降りている。部屋の北に小さな窓があるが、そこからの外光は気にならないほど幽かだ。寝つくときに枕元の蛍光灯を消すと、寝室は闇に包まれる。目を開けているのか、閉じているのかよくわからない、そんな感覚が嫌いではない。
 それでも目が慣れてくると、室内の形がおぼろげながら見えてくる。そのくらいの暗さがとても落ち着く。
 ところが夕べは覚醒してから、少しの間、目を開けられなかった。体を動かせなかった。それは夢に出てきた「それ」がまだその辺に居そうな気がして、とにかく、「それ」の気配が消えるまで、目を閉じていようと思った。しかし、眠ることもできない。夢の世界に落ちていくと、また「それ」が現れそうで、夢とうつつの間を行ったり来たりしながら夜明けを待ったのだった。

 結局、いつの間にか眠っていたようで、気がつけば夜が明けていた。幸い、そのまどろみには「それ」は出てこなかった。
 あ〜びっくりした。