抜きつ抜かれつ

 愛車の自転車(流星号)で近所のサイクリングロードを走っているときのことである。ワシャの前を五十がらみのおばさんが買い物にでもいくのだろうか、自転車をゆっくりと漕いでいる。流星号はママチャリだが、3段変速がついているのでギアを1段落として一気に追い抜いた。
 暫く快走していると、背後から自転車が追ってくる気配を感じた。ワシャは会社の自転車クラブの創立者の一人であり、琵琶湖一周レースや太平洋―日本海横断もこなしているのじゃ。最近は腰痛と膝の痛みに悩まされているが、脚力には自信がある。「このワシャを追走してくるとは、只者ではあるまい」と振り向くと、先刻、追い越したおばさんが猛然とペダルを踏んでいるではあ〜りませんか。おばさん、ワシャに追いつき、追い越しざまに「フフ〜ン」と鼻で笑ったのだ。
 おばさんは猛スピードでワシャから遠ざかっていった。きっと負けず嫌いな人なんだろう。