富士火力演習の人々 その2

(上から読んでね)
亀田興毅
「あれっ亀田がいる」と思ったら別人だった。ボーズ頭に流線型のミラークラスを掛けて、ややルーズなアーミーファッションをしたガキは増殖していた。「ここにも亀、あそこにも亀、そこにも亀、あっちにも亀、こっちにも亀、亀亀亀亀……」
 こいつら絶対に亀田のことを格好いいと思っているんだろうな。

【太った自衛官
 その日の人出は4万人は下らないだろう。その大群衆がスタンドの裏側に一本しかない仮設橋に集中した。バス乗り場に行くにはその橋を渡るしかないのだ。だから橋とスタンドの間のスペースは大群衆でにっちもさっちも動けないという状況になってしまった。そのど真ん中で若いのにこってりと太った霜降自衛官がハンドマイクを使って通行の整理をやっていた。
「押さないでください」
「押さないで!小さいお子さんもいるんです。ゲッ」
「だめです、押さないで、グボッ」
「押さないでー!ブッ」
「子どもがいるんです。押したらば、バッ」
 台詞の末尾の「ゲッ、グボッ、ブッ、バッ」というのは霜降りくんが押されて、その都度、彼が発した悲鳴なんですね。霜降りくん、要領が悪く、でもいい人なんでしょうね、群集に翻弄されながらも、必死に警備をしておりました。(合掌)
 ワシャはというと、あわてて帰って息もできない混雑に巻き込まれたくなかったので、スタンドの最上段で富士に向かって吹く風を顔面にうけながら、足元の混雑を眺めておりました。極楽極楽……

 明日に続きます。