梨下に冠を正さず(その1)

 中央省庁のキャリアの天下りが止まらないらしい。そういった卑しい不正を糾すのが「会計検査院」というお役所なのだが、こいつらも関係団体にちゃっかりと天下りをしているということだ。みんな、金のためなら埃も糞も一緒下よ。
 聞いた話ですぞ。昔の話ですぞ。
 とある地方自治体のことじゃ。国から補助金をもらっているので会計検査をうけることになった。検査が決まると県から「何月何日何時に何の何兵衛という検査員様がどんな車に乗って役所にいく。好きなモノは何と何で昼食を用意しろ」なーんていう文書が送られてくる。
 この通知をもらって役所は大騒ぎとなる。来るのはたった一人の検査員様なのだが、こいつをお迎えさせていただくために、延べ200人近い人間が右往左往するんだね。もちろん補助金をもらった担当課は一連の関連書類の再点検をし、庶務系の職員は手土産の用意やら昼食の手配に走りまわる。
 検査当日はふんぞり返った検査員様が黒塗りのお車で名古屋からお下りになられ奉る。幹部職員は正面玄関で居並んでお出迎えだ。横柄な態度で黒塗りから降り立つと市長と面会をする。1時間くらいだろうか、お茶を飲みながら世間話をうだうだとして、11時近くなってようやく検査会場入りをする。その間、補助金担当課は検査会場でただひたすら整列して待っているだけなのだ。
 やがて検査員が会場入りをすると、全員直立してご挨拶、その後、検査員様は白布の敷いてあるテーブルにお着きあそばされると、土足のおみ足を机の上にどっかりと上げて「1番、書類」とおほざきになられるのだった。
 この検査員、12時前には黒塗りで役所近くの料亭に食事に出かけて、帰って来たのは2時近かった。それからちょこちょこと書類を見て、現地検査となる。現地ではやはり職員が現地検査所を立ち上げて待っている。検査員様が日に当たってはいけないのでテントを張って書類をひろげる机には白布だ。検査員様、現地に5分、居ただろうか、3時30分を回っていたので、早く名古屋に帰って県の職員と宴会をしなければならない。だから気もそぞろだ。テントもテーブルも使うことなく手土産をトランクいっぱいに積めこんで検査員様はお帰りになった。
〈下に続きます〉