攻防(前編)

 一昨日のことだ。我社の企画部門のチーフがワシャの職場に現われて、今、手がけている災害情報発信事業についていろいろと質問をしてきた。
「導入費用ははどのくらいかかるのか?」
「将来的な需用は見こめるのか?」
「コスト・パフォーマンスは検討してあるのか?」
 なんだか根掘り葉掘り訊くなぁと思いつつも、ひとつひとつの質問に丁寧に答えていた。
「概ねその事業については解った。それで今度、全社的な情報発信をしていくことになった。業務的によく似ているのでそっちのほうもきみの部署で取りまとめ、企画書を出したまえ」と言った。
「全社的って、営業も環境部門も情報システム部局も全部からんだプロジェクトということですよね?それって企画の業務じゃないんですか?」
《ここまでのところを解説しよう。企画部のチーフはワシャが災害に関する情報機器の開発をしていることをいいことに、全社的な情報発信プロジェクトの全責任をかぶせようというのである。この事業はまだまだ未整備で失敗する可能性があり、そのリスクを企画部門は背負いこみたくないため無理矢理一事業部門でしかないワシャのところに尻を持ってきたのである。》
「きみの考えなど聞きたくない。明日の会議できみの部署で担当するように申し渡すからそのつもりで」
と言い残すときびすを返して去っていった。
 そんなぁ。
 明日(現時点でいえば昨日)、各セクションの班長クラスを企画が招集している。そこでIT関連の導入について話し合うことになっていた。ここで企画のチーフは、ワシャのチームにその仕事を押し付けるつもりなのだ。
 こんな貧乏籤は引けないし、もともと全社的な事業については企画部門がその責を負わなければならない。ワシャはすぐさまあちこちに電話をかけまくった。
(「攻防(後編)」に続く)