腹の立つこと三題

 1年ほど前に左足腓骨を骨折した。経過観察のために総合病院の整形外科を訪ねた。
 その日はいつもの若い男の先生ではなく、女医だった。女医は「左足、靴下脱いで」というので、靴下を脱いで傷のある足首を見せる。女医は前かがみになって人差し指で傷口を触診した。姿勢を正したので、なにか言うのだろうと待っていると、女医は診療机の隅に置いてあったポンプ式の消毒液を使って手を洗った。おいおいオレはばい菌の固まりか。診療を受けるために朝風呂まで入って来たんだぜ。せめて患者が診療室を出てからでも消毒は間に合うんじゃないのかい。オレの足には血液とか体液が付着していたわけではなく、せいぜい脛毛が生えている程度なんだぜ。
 日本の古本屋で「日本戦史長篠役」という本を購入した。最近は性質の悪い連中が多いのか、「弊店では、代金を戴いてからお送りする方法をとっておりますので、お手数ですが、下記の郵便振替口座へ1週間以内にご送金ください。入金確認後すぐにお送り致します」という古書店が多くなった。真面目な客にはえらく迷惑な話だが、前金で送金しなければ本が手に入らないのでそうしている。で、何日かして本体が届いた。ダンボールできちんと梱包してあったが、中には書籍があるのみで何のメッセージもついていなかった。せめて「ご利用くださいましてありがとうございました」くらいの一言がそえてあっても罰は当たるまい。心配りの行き届いた書店には「届きました」というメールを送付するが、今回はヤンピだ。
 駅前に老舗の書店がある。けっこうマニアックな本が揃っているので時々顔を出すのだが、ここの親父がレジの奥のコーナーに陣取って、顔見知りの客といつも雑談をしている。このためにレジ奥に行って本を物色するのに、えらく気が引けるのである。明確に客を差別している。常連は常連ズラをしたいから親父にいろいろと話しかけるのである。しかしふらっと立ち寄った客も、また客なのである。彼らにも好感を持たれなければリピートはしてくれまい。煙草を吸いながらの大声での雑談は「常連は大切だが、一見なんてどうでもいいのさ」という風に見えて仕方がない。だから余程のことがない限りこの店には行かずに、100メートルほど市街地に入った書店で本を買っている。客商売、注意をしたほうがいいよ。