選挙点描

 期日前投票に行った。不在者投票のことを思うと随分と簡便になっている。それでも投票前に「当日、どこへお出かけですか?」といった類の質問は残っており、総務省もあともう一歩の踏みこみが足りないと思う。
 投票所でのこと。受付で息巻いている親父がいた。言っていることは支離滅裂だったが、要するに「なんでこんなに人が居るんだ」ということを言いたがっている。中をのぞくと、受付に女性が4名、交付係が選挙区と比例区でそれぞれ1名、管理者1名、立会人2名の計9名である。確かに多いように思うが、受付の4人以外は公職選挙法で定められているのでどうしようもなかろう。後で管理者に確認したのだが、この日は300人弱の投票者がいたというから集中時には受付4人で手一杯だろう。
 赤ら顔の鼻息の荒いおとっつあんの顔を見ていてふっと昔のことを思い出した。
 前回の衆議院だったと記憶しているが、不在者投票にやはりこの場所に来たのだが、その時は随分と混んでいた。前の方で列の整理をしている職員に、やっぱりものすごい剣幕で噛みついている親父がいた。発言はやっぱり支離滅裂だったが要約すると「わざわざ投票に来てやったのに、なんでこんなに待たせるんだ。人を増やしてきちんと対応しろ!」というようなことを叫んでいた。
 確信はないが、どうも同一人物のような気がしてならない。そうだ、同一人物だ。この親父、随分とバカだねえ。自分の都合でその度ごとに発言が違う。
 ひとしきり喚いてようやく受付に座って手続きをしはじめたのだが、ここでまた大声が出る。受付が「当日はどちらかへおでかけですか?」とでもきいたのだろう。親父は胸を張って「オレはどこへもいかない」と断言した。選挙当日、家にいるなら投票所へ行けることになり、期日前投票ができなくなってしまう。受付はそのことをやんわりと説明するのだが、バカ親父は「おれはよぉ、投票へ行けといわれたから来たんだ。なんでおめえに細かいことをきかれなくちゃいけねえんだ」とわめき散らす。もう受付の説明なんか聞いちゃぁいない。「当日、家にいたら悪いのか」「何でおれに投票をさせないのか」「こんなことをやっているから投票率が下がるんだ」
 わたしはその横で「当日、仕事です」とだけ言って、手続きを済ませてさっさと投票を終えて投票所をあとにした。ああいうバカを相手にしなければならない職員の皆さんほんとうにご苦労さまです。
 それでも投票を棄権するバカよりはこの親父ちょびっとはましかもしれない。