佐伯泰英

 正月の無料放送に見るべきものはない。ほとんどの番組がスカスカだ。もう無料テレビは末期的といっていいだろう。そんな中で辛うじてNHKに見るべき番組があった。昨日の午後6時から総合で放送された「放送直前!“陽炎の辻”職人作家 佐伯泰英・創作の秘密」である。
 佐伯さんは言う。
「書いていると浮世の憂さを忘れてしまうんですよ」
「小説家なんて傘張り浪人と同じです。作品が手から離れれば次の仕事に取り掛かる」
「発想の基は現代です。でも悩み多き現代をそのまま出したのでは読者が辛い。だから江戸時代を舞台にする」
「時代小説家が忘れてはいけないもの、それは死の意識。江戸時代は、現代よりも明確に生と死があった」
「私は闘牛に関する本を出していますが、闘牛士と剣豪には共通点がある。ちょっとした心の油断が死に直結するというところ」
「文壇には面白いということに対する軽蔑がある。売れる作家を大衆作家と呼び卑下している。本は面白くなければだめだ。書いている本人が面白くなければ読者が面白いと思うわけがない」
シドニー・シェルダンがこう言っている。『悔しかったらレジを鳴らす作家になれ』そういうものです」

 手元に『佐伯泰英!ロングインタビュー&作品ガイド』(宝島社)がある。その中で佐伯さん、インタビュアーの「途中まで書いて捨てたものって、ほとんどないですか」という質問にこう答えている。
「今はどんなものでも作品、いや、商品にする。今日書き始めたら二十日後には読み物に仕上げる自信はある。これは威張ることでもなんでもなく、職人さんなら当然の約束ごとなんですよ。」
 ううむ、職人か……さすが佐伯さんの発言だ。重い。
(下にもあります)