東京蜻蛉返り その2

(上から続く)
 それからね、麻布十番二の橋交差点の東でいい店を見つけましたぞ。「Label tokyo」(レーベルトウキョー)という喫茶店である。
 組木細工のような大きなドアは少し入りづらいが、店内に入ると明るいアイボリーで統一されており、大きな移動式パネルが3枚あって、喫茶店というよりもギャラリーだね。そこにオリジナルのシャツやら帆布の端材で作った鍋敷きのような作品が並べてある。テーブルや椅子も手作りの作品で、コーヒーもその場で豆を引いていれてくれる。誰だろう。静かな男性ボーカルの歌声が白い店内に流れている。それぞれ趣きの違った組木のテーブルが6つほど、ショーケースを兼ねたようなカウンターに椅子が3つ、そこを一人の女性が切り盛りしているようだ。小林聡美の「かもめ食堂」をもう少し気取ったふうにした感じとでも言おうか。
 雨しのぎで偶然に見つけた店だったが、また行きたくなってしまった。
 そこで1杯550円のホットコーヒーを頼んだ。コーヒーはカップになみなみと注がれている。カップにはスプーンが添えてあり、そのインサイドに雪だるまのような形の小さな黄色い菓子がのっていた。ワシャは見たことがなかったので、スプーンを持ち上げてしげしげとそのダルマを観察しましたがな。顔がある。笑っている。腹には「福」と書いてある……スプーンを少し傾けたら、ダルマはスプーンからすべって床に落ちてしまった。「ああっ」と思わず声が出た。
「どうしました?」
カウンターから女性が声を掛けてくれる。
「よく見ようとスプーンを傾げたら落としてしまいました」
 と答えて、「アハハ」と笑った。
 そうしらた女性は新しいダルマを持ってきてスプーンにのせてくれた。なんだかうれしい。
「おじいちゃんが金沢の土産に買ってきてくれたんですよ」
 女性はそう言ってカウンターに戻っていった。

 今、ネットで調べたら、金沢近江市場の「角保商店」の「福だるま」という菓子だった。
http://www.shinise.ne.jp/options/shinise/od_goods.asp?temp_id=4267&shp=24
味は瓦せんべいのようだった。
 会議の成果はなかったが、いろいろと楽しい東京だったわい。仕事さえなければ一泊して東京ナイトを楽しんだものを……返す返す残念じゃ。