アルバイト曼荼羅(カメラ屋)その1

 ワシャは苦学生じゃった(笑)。なにせ貧乏教師の倅だから家は常に火の車で学費など出してもらえなかったのである。だからアルバイトは通算すると60ほどやっただろうか。
 高校2年の秋のことである。天高く爽やかな日だったので、授業を受けていてはもったいない。どうせ午後の授業は昼寝の時間になるだけだから、ツレのタドンを誘って街に出た。小遣いが底をついていたので、駅前のカメラ店の跡取り息子のカメ蔵先輩のところにでも顔を出して何かおごってもらおう、ということになった。

カメラ店(外)
「近日新装オープン」の立て看板。店の前の駐車場に別会社のトラックが2台止まっている。その荷台からせわしなく資材を店内に運びこむドライバーたち。
カメラ店(中)
 カメラ店のユニホームを着たカメ蔵先輩(20歳)が、書類を片手に店員に指示をしている。学生服姿のワルシャワ(17歳)とタドン(17歳)が遠慮がちに入口から覗いている。カメ蔵、二人を見つけて声をかける。
カメ「ワルシャワにタドンじゃないか、相変わらず暇そうだな」
ワル「先輩はお忙しそうですね」
カメ「お前らと違って社会人は忙しんだ」
ワル「先輩と喫茶店にでも行こうかなぁと思って……」
カメ「バカ野郎、猫の手も借りたいっていうのに、暇人と喫茶店なんかに行ってられるかよ……」
 と言いかけて、先輩、突然にんまりと笑う。
 カメ蔵、二人の肩に手を回して、ぐいっと引き寄せた。
カメ「いいよ、パフェでもハイライトでもなんでもおごってやる。ただし、頼みがある」
 なんだかとっても嫌〜な予感のするワルシャワとタドンの額には汗がたれてくるのだった。

カメラ店(外)
 花火が上がる。店の前の駐車場には黒山の人だかりである。ファンファーレが鳴って店の入口が開かれる。顔より大きな蝶ネクタイをしたカメ蔵がハンドマイクで叫んでいる。
カメ「いらっさいあせ、いらっさいあせ、本日は吉山カメラ店の新装開店におこしくだはりあして、ありがとうござーあす、ありがとうござーあす」
 臨時の女性アルバイト数名もユニホームを着て黄色い声を出している。
カメ「本日は新装開店記念でござーあすので、僕らのヒーロー赤レンジャーと怪獣ヘロキングが来店しておりあす。今日は無料で撮影会も行っておりあすので、チビッコたちはこの機会に記念写真を撮ってみてはいかがでしょうか」

 え!その赤レンジャーとヘロキングってワシャとタドンなの?

 驚愕のアルバイト体験は明日に続くのじゃった。めでたしめでたし。