役人の百万言より少女の一言 その3

(上から続く)
 それでも太めの論説委員ががんばった。滝クリとのやり取りで会場の雰囲気を変えて、パネルディスカッションにスムーズに移行していく。
 論説委員安城市の環境審議会の委員にもなっているので安城市のことを熟知している。滝クリ論説委員の饒舌に上手く乗って楽しい受け答えをしている。この人、やっぱり頭がいいんだな。デ大使は2度目の安城でもあるし、2度ともサイクリングイベントに参加して市民との交流も深い。それに若い市長が絡んで、ディスカッションはどんどんふくらみ弾んでいく。
 しかし、疑問は県の幹部だった。この人、何をするために舞台上に陣取っているのだろう。ずっと仏頂面で座っているだけなのね。ディスカッションの後半に、コーディネーターが、話が面白くなく長話の県幹部に少々の皮肉を込めて、話を振った。それを笑って受ければ、場が和んだのだが、この人、芯から真面目なんでしょうね。まともに受けちゃったから顔がこわばってしまって、かえって場が白けてしまった。ああ、なんでこんな空気の読めない人を入れてしまったのだろう。
 それでも県幹部は、めげることなく自分の信ずるところを突き進んだ。また、字ばっかりのスライドが投影され、その画面を延々と読み上げた。10分もですぞ。その間、滝クリは、その詰まらない画面を見るために後を向いてしまったので、お客さんは滝クリの後頭部しか見られない。
 さすがにワシャの周囲に座っていた温厚そうなオジさんたちも「いい加減にしろよ」と言い始めた。皆、斜め45度の滝クリが何を話すのか聴きに来ているのである。お前の詰まらないガイダンスなど聞きたくもない。
 この県官僚が前半で5分、後半で10分かけて説明したことを、論説委員は一言で言い切ってしまった。
「県のいろいろなイベントに参加して生物の多様性の大切さを暮らしの中で実感するようにしましょうってことですよね」
 これだけのことなのだ。
会場の市民ともっとも乖離していた県幹部は、そのことに気づきもせず、フォーラム終了後、お付きの者を従えてさっさと公用車で帰って行った。いったい何をしに来たのだろう。
(下に続く)