待ってました! その1

 錦秋の名古屋に、ついに「忠臣蔵」がやってきましたぞ。御園座で10月1日から団十郎仁左衛門福助橋之助などの顔ぶれで始まった。今回は「鶴ヶ岡社頭兜改めの場」の「大序」から「三段目」「四段目」「道行旅路の花聟(むこ)」「五段目」「六段目」「七段目」「十一段目」までの通し狂言となっている。「忠臣蔵」がまとまって鑑賞できるのは久しぶりだなぁ。なにしろ歌舞伎の演目の中では極め付きである。もちろん通しで券を入手しましたぞ。

 さて、この「忠臣蔵」である。正式には「仮名手本忠臣蔵」という。四十七士を仮名47文字にかけた題名となっている。でもね、260年前に「忠臣蔵」をつくった戯作者は、もう一つの秘密をこの題名に隠したのだ。
 二段目から登場する加古川本蔵という人物に関してである。この人、塩治判官(えんやはんがん/史実では浅野内匠頭)の同役の部下という設定になっている。そして三段目の「殿中松の廊下」では高師直(こうのもろのう/吉良上野介)に斬りつける塩治判官を抱き止め、師直を助ける役割を担うことになる。主要な役割だが所詮は脇役。にも関わらず、この人物の名前がテーマの中に折りこまれているのじゃ。 
 よくご覧あれ。
仮名手本忠臣蔵
「仮名手(本)忠臣(蔵)」
 ね、(本)(蔵)が題の中に折りこんであるでしょ。それもその(本)と(蔵)が「忠臣」を挟んでいる。これは「忠臣は本蔵」という暗示なのである。
忠臣蔵」をご存知の方はわかると思うけど、最初に師直に目をつけられるのは塩治判官ではない。加古川本蔵の主人である桃井若狭助が悪口雑言を浴びせられる。桃井は師直に斬りつけようとするが、塩治判官に止められ事無きを得る。そのことを後に打ち明けられた本蔵が裏工作(贈賄)をして師直を押さえこんでしまう。結果として師直の矛先は塩治判官に向けられることになるが、本蔵は主君とお家を守ったわけである。だから作者は、「忠臣は四十七士ではなく、家の安泰を図った加古川本蔵なんだよ」と舌をペロリと出しているんですぞ。お見事!
(下に続く)