知人から「酢を飲むと疲労回復になるよ」と言われて、キッチンで酢を飲んだ。間違って寿司酢を原液で飲んだから堪らない。甘ったるいのなんのって、吐きそうです。口直しに普通の酢をぐい飲みで飲んだら、ぎょえええええ!こっちも美味くない。当たり前でした。
 さて酢のことである。古くは正倉院文書や平城京木簡によって知られているが、奈良時代から調味料の一種類とされていた。中世になると、この時代に起こった刺身を酢などを使って食べるようになる。湿度の高い環境の中で衛生に慮った日本人の知恵と言えよう。
余談だが、戦国期に日本を訪れた宣教師のルイス・フロイスは日本人の衛生観念の高さに、ぎょええええ!と驚いている。
「われわれはすべてのものを手で食べるが、日本人は幼児のときから二本の棒で食べる。食物に手を触れないから、手を洗う必要がない」と彼の書いた『日本覚書』に残っているんですな。
 江戸期に入ると「酢屋」という商売が現れる。もちろん酢を売る店なのだが、この店の看板が振るっている。江戸後期の種本作家柳亭種彦の『還魂紙料』によれば、「へぎ板にてつくりし曲物なり」ということだ。簡単に言えばそこの抜けた桶のようなものが軒先に吊るされていた。なぜこれが「酢屋」の看板なのかというと、江戸っ子特有の洒落で、矢の的にしても素通りしてしまうから素矢(酢屋)だということらしい。

 ようやく気持ちの悪いのがおさまったわい。普通の酢は口にあわないな。仕方ないので飲用の酢を買ってくるとするか。