端午の節句にワシャ蔵行方不明

 大通りを銭亀平次がやってくる。
 木戸番屋を除きこんで、番太の年寄りに声をかける。
平次「とっつあん、ワシャ蔵を見かけなかったかい?」
番太「ああ、銭亀の親分さん、いい陽気になりましたね」
平次「ワシャ蔵、見ねえかい?」
番太「ワシャ蔵は陽が昇る前から時間旅行に行っちまいましたよ」
平次「どっちへ行った?」
番太「今日は天正3年へ行ってくるって言ってました」
平次「天正3年か……随分、遠くに行きゃぁがったな、長篠の合戦でも見物に行ったのか」
番太「おおかたそんなところでしょうね」
平次「明日は戻るかい?」
番太「一旦、天正3年に行っちまうと、なかなか元に戻るのが大変らしく、この間も大通りを裸足でペタペタ歩いていましたからね。戻ってきても使い物になるかどうか……」
平次「使い物にならねえか」
番太「多分ね」
平次「手間とらせてすまなかったな」
 身を翻すと平次は大通りの人ごみに紛れてしまった。