昨夜のこと、相も変わらず残業に勤しんでいると、サイレンの音が聞こえるではないか。何事だろうと思った。ちょうど飲み物が欲しかったので気晴らしに小雨の街へと出た。
自動販売機で健康ドリンクを購入していると、赤色灯を回転させた消防車が走っていくではないか。「火事か?」とも思ったが、火事ならけたたましくサイレンと鐘を打ち鳴らしてゆくはずなのだが、無音だ。それに火災現場に向かう時の緊迫感がない。「なんだろう?」面白そうなので消防車が消えた方向へ向かった(忙しいのに大丈夫かいな)。行ってみれば、近くの公園に三両の消防車が集結していた。三台の車両の回転灯が闇の中で交錯しものものしい。いくつもの発電機の照明が点灯し、公園のグランドと降りしきる雨が浮かび上がらせた。雨脚は強くなっている。そんな中を銀色の消火服に身を固めた消防団の若者たちがポンプを下ろし、消火栓の蓋を開き、吸管を突っ込み、ホースを延長し、ポンプを始動させ、高らかに水を放った。そのきびきびとした動作は実に頼もしい。
ヘルメットをかぶった行動服(制服)の男性に話しかけると、やっぱり消防団の非常呼集訓練だった。放水訓練自体はものの10分で終了し、十数人ほどの若者が公園の一角に集められ本部員の訓示を聞いている。その表情は真剣そのものだ。本部員の話が終わると「かしらーなか!」(本部員に敬礼という意味らしい)という号令が掛かり訓練全体が終了した。真剣な消防団員たちの表情は一気に和んで普通のお兄ちゃんの顔に戻った。なかには「今から飲みに行こう」と相談しているやつもいた。
こんな寒い夜中に呼び出されて、それもどしゃ降りの雨の中で、何がうれしくてホースを担いでグランドを走らなければならないの?と、傍観しているオジさんは思うのだけれども、彼らの顔に屈託はない。いい顔をしているんだな、これが・・・
(「夜の出来事(2)」に続く)