山野草が趣味の知人が「老鴉柿」を買いに行くというので、園芸店に同道した。
老鴉柿は、小さな実をつける中国原産の柿である。和名は「姫柿」という。これは老鴉柿を日本に普及した方が、「こんなに可憐な果実に、老いたカラスはないだろう」ということで、「姫柿」と命名されたという。巧い。
私は盆栽などという高尚な趣味を持ち合わせていないので、もっぱら見学をしていたが、知人は5鉢ほどを購入した。ダンボールの中に並べられた安っぽい植木鉢には貧相な枯れ枝(じゃないけど)が立っている。これなら老いたカラスだ、と納得していると、購入金額が20万円と聞き、愕然とした。価値観の相違というものをこれほど実感したことはなかった。この鉢が我が家の庭に置いてあったら、見栄えも悪いし、邪魔だからという理由で、いとも簡単に廃棄してしまうだろう。
龍田姫、秋茜、紅真珠、玉織姫など風雅な名前がつけられている(おっと風雅という品種もある)。この老カラスが、やがて丹果をたわたわに実らせて、艶やかな赤姫に変身するのである。そのために剪定をし、水と肥料を施し、病気を予防し、摘果し、植替えをし、一年中世話をしなければならない。気の長い趣味だが、昨今のせわしない世情を考えれば、緩々とした時間に身をゆだねるのも一興ではないかとも思える。(でもやらないけどね)