蚓喰法師

 タイトルは「みみずくほうし」と読む。夢枕獏陰陽師 夜光杯ノ巻』に収録された短編である。主人公は蝀法師(とうほうし)。この人が蚓喰法師でもある。
 陰陽師シリーズはどの作品にも季節感がある。この短編も、ちょうど今の時期、梅雨の時期をあつかっているので、読むなら今時分がいい。
 物語は、貴族たちの間に水を飲み尽くす奇病が蔓延するところから始まる。それを蝀法師と安倍晴明が解決するという物語。タイトルは蝀法師が病を治す際に、患者の腹から蚯蚓(みみず)を引き出すところから付けられたのである。本名乗りの「蝀」は「輟蝀」(ていとう)の「蝀」であり「虹」のことである。奇病と、蚯蚓と、虹と、季節をかけた名短編だと思う。
《白い雲が、西から東へ点々と動いてゆく。梅雨が去り、夏の兆しが天に満ちていた。暮れてゆく青い天に、虹が掛かっていた。》
 ラストで梅雨明けの空を描いている。この後にオチが続くのだが、それは読んでのお楽しみ。

 蝀法師も含め、水や雨をあやつるのは龍の眷属である。天竜川なんていう川もあるくらいで、蝀法師は伊勢五十鈴川の主であった。
 全国から龍の反乱(氾濫)の知らせが届く。そして、それらの親玉は、今、日本列島の上に居座って動かない。北海道から沖縄まで細長く伸びる梅雨前線を見るたびに、「まさに龍だよな」と思うのであった。龍よ、機嫌を直して、東へ去っておくれ。