橋下VS先崎

 夕べのBSフジの「プライムニュース」がおもしろかった。元大阪府知事の橋下徹氏と思想史家の先崎彰容先生が「“国論二分”どう斬る防衛力の強化&天皇制」をテーマに対談をした。

 といってもね、知識の量が泥と雲、鼈と月ほど違うので議論などは起きなかった。まず司会者がテーマを与える。最初に答えるのは微量な知識をかざしている方で、限られた知識を滔々と騙る橋下氏。

 それをうけて膨大な知識・情報に裏打ちされた先崎先生が話をつないでいく。まず、橋下氏の意見を肯定するところから入る。

「最近、橋下さんの考え方も私に近くなってきました(笑)」とか「それは橋下さんの仰るとおりです」とか「私もそう思います」と、一応ガキ大将の言っていることを肯定しつつ、そこから本質の部分へと誘導していく。よく聴いていると、先崎先生は橋下意見を肯定しているように見せながら、徐々に橋本意見を否定していくような方向に進む。浅薄な知識しかない橋下氏は、先崎先生の意見に頷き続けていた。

 橋下氏が持論を展開する中で「形而上」「形而下」という言葉を使った。この言葉って難しいですよね。プライムニュースを見ておられる方でも、この2つの違いってなかなか説明できないのではないでしょうか。ワシャは辛うじて司馬遼太郎さんが、「形而上」「形而下」という言葉をエッセイの中でよく出しておられたので、なんとか知っていました。家人に尋ねられて「“形而上”というのは形がなくて五感ではその存在が知れないもので、時間とか空間を超越した抽象的、観念的なもの。“形而下”はその逆で具体的に形をそなえているものかなぁ。簡単に言うと」と適当に答えた。

 番組の中では、「やはり視聴者の理解を深めなければ」と考えた先崎先生が「形而上」「形而下」について解説をされていた。

 橋下氏もその説明には「なるほど」という表上で聴き入っていた。朝の番組や大阪の番組で見せる、覆いかぶせて相手の意見を封じる手法はまったく見せなかった。この人、いつもそうなんだけど、相手が「自分より知識量が半端ない」と思うと論戦を避ける。例えば百田尚樹さんがそうであったり、昔の「たかじんのそこまで言って委員会」のコラムニストの勝谷誠彦さんとの議論もそうだった。相手の知識量に勝てないと形而下で感じると、さっさと尻尾を撒いて逃げる。

「そういうヤツだった」と勝谷誠彦さんには直接お話を聞いたことがある。勝谷さんが生きておられれば、最近の「そこまでいって委員会」もおもしろかったろうに。門田隆将さんではちょっと弱いかも。

 さて、番組の後段である。アナウンサーが「最近の情勢に役に立つ本を紹介してください」と言う。さあて、(暴)論客の橋下氏はどんな本を出してくるかと思いきや、3冊も出してきよった。その3冊を見てワシャは引っくり返った。高校生でもあるまいに新書3冊を提示している(笑)。

松里公孝『ウクライナ動乱』(ちくま新書)

鶴見太郎『ユダヤ人の歴史』(中公新書)

宮田律『物語イランの歴史』(中公新書)

 おいお~い、ワシャはすべて読んでいるけれど、このレベルの本でどれほど現状の国際政治に理解が深まると思っているのだろうか。いいですか、『ウクライナ動乱』は3年前の出版です。『ユダヤ人の歴史』はまた新しく1年半くらい前だけど、『物語イランの歴史』にいたっては四半世紀も前に出版され、今や絶版になっている。これを推薦して来るかねぇ、橋下さん。『物語イランの歴史』はもう通常の書店ルートでは買えないじゃん。

 かたや先崎先生である。推薦図書は、アレクサンダー・C.カープ、ニコラス・W.ザミスカ『テクノロジカル・リパブリック』(日経BP日本経済新聞出版)、副題として「国家、軍事力、テクノロジーの未来」とある。この3月に出たばかりの新刊で、なんと一冊3200円もする本だ。早速、購入して読まなければいけないが、全国書店ネットワークのe‐honでは売り切れてまった。一応、入荷したら連絡をもらえるようにはしておいたが、やっぱり読みたいので、ワシャの縁の深~い図書館に聞いてみたら、ちゃんと蔵書を持っておりましたぞ。この手の本を揃えれいる図書館というのは実に頼もしい。昔の人が一所懸命に書籍購入予算の確保に奔走した結果でしょうな(笑)。

 ということで橋下徹×先崎彰容に対論は先崎さんが圧倒的な勝利で終了いたしました。めでたしめでたし。