引き続き岸信介のことである。再勉強してみるとこの政治家の大きさに改めて驚かされている。
なにしろ地獄のような巣鴨プリズンを糧にしてしまうのだから。『岸信介』(岩波新書)には《獄舎の岸に精神的苦悩と肉体的苦痛はあっても、退屈という名の苦しみはほとんどなかった》とある。その理由として「読書への執着」であり、ジャンルを問わず「読書に熱中寸暇を惜しむ」状態だった。
岸はインタビューに「暇を持て余すことなど決してなかった。人の退屈は発想の欠如による」と答えている。そしてこう詠む。
「退屈は心貧しき証左(しるし)なりと教へし人を想ひ見るかな」
勉強になります、岸総理。
『岸信介 最後の回想』(勉誠出版)から岸の言葉を引く。
「頭はいつも使って、心はいつも和やかなことを思う」
「本当に最後の決断と言うものの時は、誰に相談することもできない。自分自身で決めなきゃならん」
「安政の大獄みたいに、別に法律があって罰せられるんじゃない。買った奴が敗けた方を、処分するんですからね。(中略)法規があって、その法規に違反する奴が、罰せられるのなら分かるけれども、戦犯は法も何もないんです」
と言いながらも監獄での生活をポジティブにこう笑う。
「役人をした時代から、非常に不規則でしてね。夜は遅いし、時間も不正確な食べ方をしているし、そういう日常を送っておったのですよ、急に三年三カ月の間は規則正しいい健康管理をされてもらった」
「首相の仕事が忙しい」と愚痴を言っていた首相もいたようだけど、ゲルゲール、岸総理のように常に前向きでなくっちゃモノの役には立たない。
そうそう、我が師匠の呉智英さんと仲のいい宮崎学さんも岸信介について書いている。『安倍晋三の敬愛する祖父 岸信介』(同時代社)である。ここから引く。
《巣鴨の岸信介は、東京裁判の正当性を批判し、かつみずからが指導した戦争が正当な自衛戦争であったことを主張している。》
戦犯として捕まっているにも関わらずすごいですよね。ひとつ間違えれば絞首刑になるんだから。上記の文章の直後に岸の比較として、内大臣だった牧野伸顕の行動が載っている。
《獄中では、たとえば、かつての内大臣・牧野伸顕のように、他を押しのけて残飯を漁ったりしてひんしゅくをかうようなあさましい姿をさらすものも少なくなかったが、岸はそういうことはなく、ずっと意気軒高だったようである。》
ワシャが岸信介を好きなのは、こういった人として屹立しているところである。そしてこの兄にしてこの弟(佐藤栄作)あり。この祖父にしてこの孫(安倍晋三)あり。
政治家とはかくあるべし。この人たちに比べて、今の政治家の不甲斐ないことよ。ぜひ高市首相には岸信介に学んでいただき、牧野伸顕のようなはしたない政治家にはならないでくだされ。