鷲田清一×永江朗『てつがくこじんじゅぎょう』(basilico)にこうあった。
《自分の内部を見て、「他の人にないものが自分にはあるだろうか」とか、「自分の個性ってなんだろう」っていうことばっかり考えていた。いまもみんなそうでしょう、「自分にどんな素質があるか」とか、「どんな能力があるか」とか。それが「ある」と思っていて、「まだ開花していないんだ」「誰も気づいてくれていないし、自分でも気づいていないんだ」と思っている。》
デンマークの哲学者、キルケゴールの『死に至る病』に関しての鷲田氏の発言だ。続けて「自分に中にはまだ見つかっていないけれど、他の人より優っているものがあるはずだという妄想をぶち壊してくれた一冊」だと言っている。
鷲田氏と対談をしている永江さんから思い出したことがあった。それはワシャがまだ若かりし頃、「自分でも気づいていないもの」を開花させるべく東京のライター・セミナーに行った時の講師のひとりが永江さんであった。その時の講師陣の中に、コラムニストの勝谷誠彦さんがいた。これが衝撃的だった。
勝谷さんの前の講師が和田秀樹さん、和田さんにも刺激をいただいたが、まぁ勝谷さんの激しさといったら物凄かった。マクラで和田さんのことをぼろくそに言って笑いをとっていましたね。もちろんコラムニスト、出版者としてのお話もとてもためになりました。
「ライターも記者も、その背後に、圧倒的な教養の海を持っているということが、これから日本のメディアで、あるいは世界のメディアで活躍してゆくためには、一番必要になります」
勝谷さんに大きな影響を受けたこの日以降、ワシャの書籍購入は爆発的に増加していく。本は増えに増えた。けれどワシャの教養は大して伸びなかったなぁ(笑)。
その勝谷さんである。大阪サンテレビで「カツヤマサヒコSHOW」という番組を始めた。その初回が作家の百田尚樹さん。『永遠の0』を大ヒットさせ、その他にも何作もヒットを出したベストセラー作家である。
勝谷さんも小説を書いている。平成23年に『ディアスポラ』(文藝春秋)を出版するも、その後の重版もかからない状況だった。そのことを番組中に勝谷さんが百田さんに相談をする。
「ぼくの小説売れないんですよ。どうしたら売れるんでしょう?」
これに対して百田さんは厳しい。
「売れる要素があんまりないんですよね。非常に内容はいいんですよ。ところがね読んでてつらいんですよ。物語は素晴らしい、確かにうなるところはある、深い、だけど売れない」
これが平成25年10月の放送だった。おそらく勝谷さんは小説家として売れっ子になりたかったと思う。しかし百田さんにはっきりと「売れない」と断言された。これは手厳しい。「才能はある、まだ開花していないだけだ」と思っているから「どうしたら売れるんでしょう?」という問いになっている。鷲田氏の言を借りれば、それは「妄想」だった。そのことは勝谷さんにも判ったようで、以後、勝谷さんは小説を出していない。
その後、平成29年に兵庫県知事選に立候補するが、惜しくも敗れてしまった。安倍晋三さんの説得で、立候補表明を躊躇したことが選挙の敗因として後に語られている。選挙で敗北するというのは、物すごいダメージがある。おそらく繊細な勝谷さんの精神は耐えられなかったのだろう。以降、酒量が増えたとの噂を聞いている。それが命をも削っていくことになった。
坂の上の雲をあおぎながら道を登っていく。何冊もの本を出し名を成した勝谷さんですら、坂の上にあるはずの桜の満開を夢見て叶わなかった。いわんや凡夫のワルシャワを於いてをや。