(続き)武田邦彦講演会

 昨日の続き。「武田邦彦講演会」の話である。

「日本人は自分の時間が長かった(日本人に時短は不要。自分で判断)」と、ちょっと長いタイトルのついた表が示された。日本とヨーロッパの比較表で、日本は[仕事1]→恩返し、[仕事2]→仕事の満足、[自分の時間]→遊び。ヨーロッパは[仕事1]→自分の時間を売る、[仕事2]→奴隷、[自分の時間]→自己実現・・・と書かれている。

 これは昨日紹介した武田先生が2022年に上梓された『これからの日本に必要な「絡合力」』(ビオ・マガジン)に詳しいが、要するにヨーロッパ系の考え方は、「労働」は「奴隷のすること」という考え方がベースになっているのに対し、日本人は、それを「他者に支えられて自分が存在しているから恩返しで働く」と考える。恩に報いるため、感謝の気持ちを持って仕事で報いようとするのが日本人だと先生は言われる。

 仕事で世間様に恩返しをし、さらに仕事の中に自己の満足を見つけようとするから、日本の製造業のクオリティーは高くなる。これが欧米系の考え方になると、例えば「契約」で「ボルトを締める」仕事をするとなると、「ボルトを締める」ことしかやらない。ラインの隣で別の仕事をする工員のミスを見つけても、自分の「ボルトを締める」こととは関係ないので口出しもしないし手も出さない。だから不良品が多く発生する。

「仕事」に対する考え方、覚悟が違うと先生は言われる。もう一つ先生は例を挙げた。

 外国のレストランでテーブルを拭いている従業員に「ビールを持ってきて」とオーダーをしても、まったく無視される。これはその従業員がテーブルの清掃をするという業務で契約しているからで、他のことは契約外だから一切やらない。

 ところが日本の食堂の婆さん従業員だと、テーブルを拭いていても「ビール2~3本持ってきて」というと「あいよ」と返事をして対応してくれる。さらに貧乏そうな客なら「2本」、金を持っていそうなら「3本」と、機転を利かせて持って来る。

 要は、日本人は労働を自分なりに楽しんで、仕事の中に「恩返し」「満足」を見つけながら働いているので、そもそも欧米の労働に似せた「時短」だとかは必要ないと言われる。

 確かに、ワシャも企画系の仕事をする時には時間なんか気にならなかった。企画書を書いていると、しばしば深夜になることもあった。でも、細かい書類の数字のチェックなどの仕事はゲンナリしてたけどね(笑)。

 次に先生は「資本主義から社会貢献主義への理論化(Ai時代のマルクス主義)」と題された表を示した。

 その表、縦軸が「年収」、横軸が「社会貢献度」となっていて左下から右上に太い線が斜めに引かれている。左下の低いところから〈生産〉、少し上に〈娯楽・芸術〉、中央辺りに〈救命〉があり、さらに右上に〈育児・人格教育〉、〈出産〉と続き、もっとも高い位置に〈国防・安全〉と記されている。先生はニヤリと笑って、

「〈生産〉がもっとも定位置になってしまいました。製造業者の多い商工会議所では帰りのタクシーが呼んでもらえないかも」

 と言われる。会場は大爆笑だった。そして先生は続けてこう言われた。

「次世代の社会を担う子供を必死に育てている母子家庭に225万円+α程度のお金しかいかない。それに対して大会社のある社長など年収が16億円。母子家庭の母親の担っている仕事と、大会社の社長の仕事にこれほどの金額差があるとは到底思えない。私はこの差はダメだと思いますがね」

 なるほど。それが「資本主義」から「社会貢献主義」への転換なのか。ワシャは保守とか右とか言われることがあるけれど、実は「社会主義」についても是とするものである。基本的には「土地共有制」などには一理あると、漠然とだが考えている。

 それが、先生の言われる「社会貢献主義」に当てはめるとよく理解ができる。資本家、モノを動かして利潤を得るような人は、安価な報酬でいいですね。16億円でなくて5000万も与えておけばいいでしょう。でも女手一つで子供を育てる人にはもう少し手厚くしてもいいのではないでしょうか。ね、ワルシャワもリベラルでしょ(笑)。

 最後に先生は「AI時代の楽しい生活」を示された。

1,列島改造(山脈などを貫通する道路をつくって真っ直ぐに車を走らせる。とても効率のいい交通体系ができる)。

2,高速道路タダ。ガソリン税無税化。

3,環境投資ゼロ。教育は親が努力。時短なし。

4,移民なし。外国人の土地取得なし。

 仰るとおり!

 

 講演は大拍手で終わった。とくに会場にいた女性陣には武田講義は大受けだった。質問が何問かあったが、もう予定されていた時間はとっくに過ぎている。新幹線の時間もあると進行係は心配している。それでも先生は丁寧に質問に答えられ、10分オーバーで退席をされた。

 退席ルートは入って来た時と同じである。通常の演者が使う舞台袖のドアではなく、会場後方の一般客用の扉に向かう。ということは、ワシャの座っている席の横の通路を通られるわけだ。

 ワシャは「ピーン」ときたね(ニンマリ)。ワシャは鞄の中から先生の本である『これからの日本に必要な「絡合力」』を取り出した。付箋のびっしり貼ってあるその本を、商工会議所の幹部たちに囲まれて通路をこっちに向かって来る先生に掲げ示したんですね。

 そうしたら武田先生、その本を目に留められ、ワシャのほうに歩み寄ってくれた。

「読んでくれたの?」といつもの笑顔で聞かれるので、「拝読させていただきました。とても面白かったです」とお答えした。

 先生は「それはありがとう」と右手を差し出されたので、会場内でたった一人だけ先生と握手したのだった。

 先生の背後で、会頭たちは足を止められてしまい苦笑するしかなかったようだ。でも、ワシャは本を掲げただけで、あとは武田先生がそうしたのだから、ワシャを責めるのはお門違いですわな。

 てなわけで、また武田先生の本を読むことにする。そうだ、新刊もさっそく買いに行かなくっちゃあね。