「継続こそ力なり」とはよく言ったもので、岡崎の「甲山落語会」も28回を数えている。隣接の安城で昭和から続いてきた「安城落語会」が168回で終わってしまったことと対照的に。
「安城落語会」は民間の人の力で続いてきた。地元のお医者さんが、なかなか落語を聴きに行く時間が取れないから、「だったら安城に呼んでしまおう」ということで始まった。第1回が立川談志というのも有名な話で、ネタ帳を一度拝見したことがあるけれど、錚々たるメンバーが田舎町安城を訪れていた。平成になり、その後半は瀧川鯉昇が中心となって、数名の噺家や色物を3カ月に1回のペースで呼んでいた。
でね、昨日、その鯉昇師匠が「甲山落語会」に来たってことなんで、早速、岡崎まで出かけましたぞ。
ホントはね、鯉昇師匠には安城でお世話になっていたものですから、お茶請けの菓子などを持参してご挨拶をと思ったんですが、なにしろ顔にちょいとした変化が生じていて、こいつを師匠にみせるのも無粋なので、今回はご挨拶をせずに前から2列目で高座を楽しみました。
今回は三遊亭遊雀さんと坂本頼光さんを誘っての落語会だった。開口一番は遊雀さん、ネタは「熊の皮」。近所のお医者から赤飯をもらったということで、ちょっととぼけた亭主が女房の指図でお礼の挨拶にいくという噺である。
実は、遊雀師匠、ワシャは初めて聴いた。全体的な風貌は小柄で細く、ちょいと見、鶴光さんによく似ている。でもね、話っぷりは江戸前そのもので、伝法な節回しは江戸っ子のそれだった。
次に高座に上がったのが鯉昇師匠、ネタは「蛇含草」の旦那の家を出るところまでを演った。ここで鯉昇は餅を次から次へと食ってみせるのだけれど、これが上手い。
中入り前の最後が再び遊雀。このネタが「死神」。これは名人たちの得意なネタで、圓生、談志、小三治などが演っている。もちろんワシャは3人ともDVDだけど観ています。「だから評価は厳しいですぞ」と構えて観ていたが・・・これがなかなか達者なんですね。圓生や談志の深刻さのようなものがなく、からっとしているというか、後味のいい「死神」でした。
抽選会と仲入りの後、活動弁士の坂本頼光が登場。プロジェクターで無声映画を上映しつつ物語を弁じていく。
最初は昭和3年(1928)、日活作品の「血煙高田の馬場」。「忠臣蔵」の堀部安兵衛が義父の弥兵衛と出会った時のエピソードである。
次が昭和12年(1937)、大都映画の「弥次喜多 岡崎の猫退治」。これは岡崎の化け猫の話なんですが、化け猫が見るからに被り物の出来で、映画黎明期のどたばたが楽しくってしょうがない。このレベルだとワシャが高校時代に制作した「女子高生殺人事件」とそれほど違わないなぁ(笑)。
久々に無声映画を弁士付きで堪能し、さて、トリで鯉昇師匠が再登場。ネタは「武助馬」である。もちろんネタもおもしろかったんですが、鯉昇師匠、なにしろマクラが秀逸だ。「武助馬」ってのは、武助という男が歌舞伎の世界に飛びこんで、馬の脚から頑張るという噺なんですが、そのマクラに自分たち落語家のメンバーで演劇をやった時の思い出を語るんですね。出し物は歌舞伎の「俊寛」で、幕が開くと俊寛僧都が岩にしがみついて、船を見送っている・・・その瞬間、幕が閉まってはいおしまい。そこから本題の武助の噺に繋がっていく。大爆笑だった。
久し振りに楽しい時間を過ごしたわい。顔面は痛いけど。