読書会は楽し

 いやはや大変な読書会であった。

 昨日、午後1時ちょうどに某料亭の2階座敷を借り切って読書会を開催した。その料亭、大きな声では言えないが、彼の童話作家新美南吉ゆかりの料亭なのである。そこで課題図書は『新美南吉童話集』(岩波文庫)とした。 さらに昨日は、料亭のある安城で「新美南吉夢記念祭」と題して、昭和の横丁や屋台を再現し、紙芝居や舞台劇、大太鼓連なども登場し、街中がそりゃあもう大騒ぎだった。 ドンピシャリの日にドンピシャリの場所でドンピシャリの課題図書なのである。

 

 読書会1時限目は、まず、課題図書に載っている14編の中からそれぞれが一番と思う作品を挙げてもらった。「ごん狐」はきましたねぇ。「最後の胡弓弾き」、「花のき村と盗人たち」、「和太郎さんと牛」、「牛をつないだ椿の木」も入った。そして一番人気のあったのが「久助君の話」である。

「ごん狐」は言わずと知れた新美南吉の代表作で、小学校4年の国語の教科書に全社載せているという作品だ。だか当然と言えば当然の結果であろう。

 その他の5作は、これが全て安城時代の作品である。というか、この『新美南吉童話集』に掲載されている作品14、評論1の内12が安城で執筆したものだった。つまり南吉作品の名作は安城で書かれたと言ってもいい。出された意見を列挙する。

○作品のエンディングにもやもやしたものを感じる。

○南吉はディテールにこだわる作家だった。類似作家としては宮崎駿か。

○童話より小説が書きたかったのではないか。南吉が結婚して、子供ができ、成長し、老域に達した晩年の作品が読みたかった。

○バッドエンドのものが多いような。

○説教くさいなぁ。教育的要素が強い。先生が生徒に訓え諭しているような感覚。

○言葉のリズムがいい。まさに物、語り。

宮沢賢治と比べると土臭い。

○「花のき村と盗人たち」は落語にするといい。

○「花のき村と盗人たち」の盗人5人の構成といい、前半のドジなやり取りといい、ドリフターズのコントを彷彿とさせる。

 

 2時限目は賢治と南吉の対比を議論した。

○お洒落なのは賢治。バタ臭いし、ギミック(特殊効果)もあるし、メルヘンチックでヨーロッパの作家の作品と言っても通用する。

○賢治は呪文が多い。そして小説は標準語を使う。その点、南吉は方言丸出しだ。だから田舎臭い。

○賢治は「クラムボン」とか「グスコーブドリ」とか「カンパネルラ」とかヨーロッパを舞台にしているような作品が多い。その点、南吉は「半田」とか「岩滑新田」とか「花のき村」とか土着感が満載。

○賢治はお洒落なので、プロモーションとか商売には使いやすい。

 この発言に対してワシャは反論をした。

「南吉の顔を見てくだされ。『別冊太陽 新美南吉』の12頁に載っている(半田中学校卒業アルバム)の南吉の紅顔の美少年ぶりを。賢治の田舎顔とは雲泥の差ですぞ」

 と言いまくった。そうするとね、チェリオ君がこう言い返した。

「顔は南吉の方がいい。おそらく女性にもてたのも南吉だろう。しかし、賢治は畑を歩くシルエットがすでに商標として完成されている。さらに岩手の花巻あたりは、農学校もそうだが北海道のようなヨーロッパに近い風景を持っている。田舎の半田や安城とは風土が違う」

 た、確かに。

 

 3時限目。「牛をつないだ椿の木」についての意見を求めた。 この作品はざっとあらすじを言うと、人力車曳きの海蔵さんが、峠に皆が利用できる井戸が欲しくて奔走するのだが、「公」だと思っていた人が「私」であり、結局、「私」である海蔵さんが大枚をはたいて井戸を掘り、その後、戦争のために支那にわたるという話。全七章でできていて、最終章は130文字の短いものである。

《ついに海蔵さんは帰ってきませんでした。勇ましく日露戦争の花と散ったのです。しかし、海蔵さんのしのこした仕事は、いまでも生きています。椿の木かげに清水はいまもこんこんと湧き、道につかれた人々は、のどをうるおして元気をとりもどし、また道をすすんで行くのであります。》

 この「公」と「私」について問いを発すると、チェリオ君がこう言った。

「嘘くさい話ですよね」

 他の人からは「南吉は普通の道徳の人」、「しみじみと物語りをする人」、「南吉は反戦の人かと思っていたが、そうでもないような気がする」というような発言があった。

 

 4時限目。それぞれの今年一番の推薦本を発表してもらった。

藤田昌雄『陸軍と性病 花柳病対策と慰安所』(えにし書房)

藤田昌雄『陸軍と厠 知られざる軍隊の衛生史』(潮書房光人新社

小谷賢『日本インテリジェンス史』(中央公論新社

谷川俊太郎、合田里美『ぼく』(岩崎書店

上田閑照、柳田聖山『十牛図 自己の現象学』(筑摩書房

鮫島浩『朝日新聞政治部』(講談社

播田安弘『日本史サイエンス』(講談社

播田安弘『日本史サイエンス〈弐〉』(講談社

室井康成『日本の戦死塚 首塚・胴塚・千人塚』(KADOKAWA

宮崎貞行『天皇国師 知られざる賢人 三上照夫の真実』(学研プラス)

尾崎俊介編『エピソード アメリカ文学者 大橋吉之輔 エッセイ集』(トランスビュー

ローラ・インガルス・ワイルダー大草原の小さな家』(福音館書店

『花のき 創立四十五周年記念号 第二十三号』(新美南吉に親しむ会)

高山正也『図書館の日本文化史』(筑摩書房

 以上が推薦本である。ううむ、なかなか自分では手に取らない本がありますぞ。しかしひととおりは目を通すつもりである。

 3つほど、読書会に参加しているが、読書家との議論はなにしろ刺激が大きい。あ~おもしろかった。