添削「天声人語」

 今日の「天声人語」はそこそこおもしろかった。「起こし」はこうだ。

《ツバメ返し、綱渡り、そしてこまを耳飾りにみせる秘技イヤリング。こまのおっちゃんの実演に親子連れが沸く。新年の初仕事は地元名古屋のショッピングモール。おっちゃんこと日本独楽(こま)博物館の藤田由仁館長(77)はこまを回し続けた》

 この「こまのおっちゃん」をワシャは知っている。以前、某博物館で仕事をしている時に、新春の企画として「独楽」をテーマにしたことがあり、その時のイベントで招聘したことがあったのだ。そういった意味からも興味をそそられ、評価がよくなったのかも(笑)。

「承」は藤田館長の経歴を紹介する。

《40年前に出身地・兵庫県につくった私設博物館を、転勤先の名古屋に移転。49歳で会社を辞め、こまの魅力を伝える「伝道師」になった。》

 さらに私設博物館での子供たちとの触れあいの話とつづく。

 しかし「転」がいけない。ここで盛り上げないとコラムは活きないのに、

《取材の際、ツバメ返しに挑戦してみた。わが手のひらでぶじに回るこまに、中島みゆきさんの「時代」がふいに浮かんだ。〈そんな時代もあったねと いつか話せる日が来るわ〉〈まわるまわるよ時代はまわる〉》

と、きたもんだ。なんでここで急に「時代」が出てくるのかが説明されておらず、唐突感は否めない。「クライマックス」で中島みゆきを出すなら、あらかじめ前段で仕込んでおけよ、布石を打っておけよと、指導しておく。

 例えばだ、「49歳で会社を辞め」たとあるので、77歳という年齢から遡れば、2021+77-49=1993になるでしょ。1993年は、まさに中島みゆきが「時代」をシングル発表した時である。

 つまり「49歳で会社を辞め」の文章のあたりに、《中島みゆきの「時代」が流行っている49歳の頃、会社を辞め》としておくだけでも、「転」の文章とのつながりが出てきて、読者を「なるほど」と思わせ、さらに文章の中に引き込むことができる。

《まわるまわるよ時代はまわる》

を受けて、「結」の

《コロナ禍の去らぬまま迎えた新年。3月に予定している大会を開けるかどうか、おっちゃんは気をもむ。禍ばかりでなく福がまわってくる年でありたい。》

が活きるというものである。

天声人語」の時代はなかなかまわってこないねぇ(笑)。