半沢直樹が帰ってきた。池井戸潤の原作で「倍返しだ!」が決めゼリフ。前作は、融資の引き上げにより、零細企業主の父親を銀行に殺された半沢が、その時の冷酷な融資担当の重役に復讐するというもの。見られた方は痛快だったでしょ。あの傲慢な大和田常務を最終回で土下座させたんだから。
前作は、平成25年だったのかぁ(遠い目)。ちょうど組織のど真ん中にいることですな。あのドラマ、組織の中枢で、かつ権力に近いところで、権力争いに巻き込まれる位置にいる場合、なかなか笑ってみていられない。
大会社の東京中央銀行で起きていることは、大なり小なりどんな組織でも起きることで、人事への不満、左遷、上司との軋轢などというものは、組織人なら必ず味わうものと言っていい。というか、それが組織に属する醍醐味みたいなところもあって、ある部署に配属になって、社長派の課長と、副社長派の次長のどちらに取り入るのか・・・というのはけっこう大きな博打になる。だから組織人は、上司と飲みに行ったり、会合に参加したりして、どの馬にのることが正しいのかを見極めようとする。
ワシャはそのあたりが明確で、その人がいい人かどうか、これは「正直」「性格」「運」「頭」などの総合的なものだが、そこを重要視して判断した。もっと端的に言えば、最優先したのは、何度飲んでも楽しいかどうか・・・で決めていた。
新人に毛が生えた頃、組織の中でも極めて評判の悪い係長の部下になった。その人の悪評、武勇伝はたくさんの先輩から聞いた。要するに社の異端児だった。
「まともに付き合うな」
「付き合うとお前も同類と見られて出世からは外される」
「酒癖が悪い。とにかく乱暴で強引な奴だから距離を置いて2~3年耐えるんだ」
異動の挨拶に行っても、表情一つ変えずに「おお」というだけで愛想の一つもない。事務職なのにラフな作業着姿を好み、社長の前にネクタイすらせずにその格好で行ってしまう。
「こいつは厄介な上司だな」
とは思わなかった。
「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」
と思っているワシャは、とにかくその上司と付き合ってみようと思った。
当時、その人の部下にはワシャの年上ばかりが6人いた。先輩たちは、なにしろ係長を恐れ、さわらぬ神に祟りなしとばかりに割れ物でも扱うような姿勢で付き合っている。恐がって従っているというのが見え見えだった。
その点、ワシャは高校時代に修羅場をくぐってきたので、喧嘩慣れしていた。突然の罵声にも平常心で対峙することは訓練を積んでいる。
チームで取り組んでいたある業務が失敗した。
「テメーらなにやっているんだ!遊んでんじゃねーぞ!」
と、係長の罵声が飛ぶ。先輩たちは真っ青になっているが、ワシャは平然と聞いていられるんですね。ひとしきり怒られた後、席にもどって業務を再開する。夕刻になって、係長は少し反省したのだろうか、叱った部下に「おい、ちょっと飲みにいくか?」と声をかけだした。
「いえ、今日中に仕上げなければいけない仕事がありまして」
「今夜、どうしても外せない所用がありまして」
順番に断り続けられ、ついにワシャのところまでやってきた。
「いいスよ」
と、ワシャが了承したので、なかなか笑わない係長の顔がほころんだ。
係の中で、一番下っ端のワシャが発言力を持つのに、そう時間はかからなかった。係長は、周囲から聞くほど無神経ではなく、どちらかというと繊細な人で、そのことを理解して付き合えば、これほど扱いやすい人はいなかった。4~5回のみに行けば、もうワシャの意見はほぼ聞いてくれるようになってしまう。人なんてそんなものだ。
その頃から権力争いというようなものがあるんだということを意識するようになり、もちろんそれは同期・同年の連中も学習して、それぞれがいろいろな派閥、権力者にすり寄っていく様は、まさにドラマ「半沢直樹」だった。
ワシャはというと、社内でももっとも孤立していた変人係長と仲のいい人間ということで、どこの派閥も受け入れてくれなかった(笑)。
でもね、この人と知り合ったおかげで、その後の社の中でおもしろい時間が過ごせたとも思っている。
「半沢直樹」、ややデフォルメはしてあるが、大なり小なり組織というものは癖の悪いもので、その中で頭角を現そうと思うとそれなりの苦労が伴う。そういった現実を知らしめてくれる意味で楽しいドラマだと思う。
さて、今日も倍返しするために頑張って出勤するか・・・などと書いていたら、たった今、午前7時28分にケータイが鳴った。ある部署の課長から指名手配がかかったのだ。もう出勤しているのかいな。ちょいと先週、あることで内々の調査を依頼していた。それができたというのである。今日の朝一番の役員会に間に合うかどうかと思っていたが、よくぞ間に合わせた。これで役員会がさらに楽しくなる。ムフフフフ。