脳が忘れたんです

 最近、脳にまつわるある体験をしたので、脳の話を書こうと思って、養老孟さんの本などをひも解いていた。そうしたら『あなたの脳にはクセがある』(中公文庫)の中に、司馬遼太郎に触れたところがあった。それはメモしておこう。

中央公論』に連載されていたエッセイで「この国はかたち」と題されている。この題だけでも司馬さんの話って判りますよね。

 この中で、養老さんは日本の政治について書いている。養老さんは言う。

《与党が多数を占めた。それが選挙の結果だといわれても、そうかというだけである。二百数十の議席を占めればいい。それを多数というらしい。》

 この後に、司馬遼太郎の『この国のかたち』を『この国はかたち』と誤読したことを書いている。その上でこう続ける。

議席にして二百数十とは、まさに「かたち」である。その形の確保に、この国の政治はすべてを賭ける。だからこそ、過去においては、自民党社会党が一緒になったのであろう。また現在では、自民党公明党が一緒になっている。》

 養老さん、自社、自公の組み合わせを《なんでもあり》と言い、《そこを縛っているのは、二百数十という数である》と指摘する。さらに言う。

野中広務氏がいま勢いのいいのも、公明党のつながりだという。とくに小選挙区では、公明党の力は無視できない。野中に睨まれたら当選できない。》

野中広務」というところが時代を感じさせますわなぁ。今でいえば「二階俊博」というところですが、常に公明党にパイプを持つ長老が権力を握っているんですね。つまりは学会毒が自民党の全身に回ってしまったということです。これじゃぁ日本はまともにはなりませんわなぁ。

 脳の話を調べていたら、二階の顔まで脳裏に浮かんでしまった。しまった(泣)。

 

 本論に入ろう。

 脳の話だった。同じく養老さんの『記憶がウソをつく!』(扶桑社)の中に「記憶が変形する」という話がある。詳しくは書かないけれど、自分が「絶対に間違いない」と確信ししている記憶ですら本人に嘘をつくものらしい。

 昨日の話である。ワシャは朝から職場に出てオフィスの机に向かっていた。ワシャの部屋には18人の外部役員が机を構えているんだけど、朝一番で顔を合わせるのは3人くらいかなぁ。その中に長老の役員がいて、よほどのことがない限り始業前には机にすわっている。その人が懸案を抱えていて、というか我々のグループ共通の懸案があり、長老が責任者になっている。そのことで、たまたま目の前にいたワシャに声をかけてきた。

「この法解釈について、どう思う?」

 ワシャは自分の知っている知識の範囲で意見を述べた。そこまででも充分だったが、若干、答えに不安な部分があった。自分の中で納得がいかない。担当課まで言って情報収集をしたが、詳しい担当者がいなかったのでらちが明かなかった。

 午前11時ころになると何人かの役員が出勤してくる。10人くらいになるとかなり部屋が賑やかになる。こうなるとワシャは集中できない。それに新人からも、初歩的なことをいろいろ相談されるので、自分の仕事はそっちのけで対応をしなければならない。懸案事項の確認もしたかったので、関係書類を鞄につめて抱えて事務室をあとにする。昼過ぎから会議もあるので、フロアの出口のところにある「出退プレート」は消さずに外に出た。

 事務所の目の前に大きな図書館がある。そこにいくと資料は揃っているし、静かな上に、飲食も可能ときている。実際に憲法学の八木秀次の書籍も確認したかったので、のこのこと出かけましたぞ。

 軽く昼食を取りながら、八木秀次の書籍を何冊か、閲覧席に集めて本を読みだした。いやはや、静かなので捗りますわなぁ。何冊かの本を渉猟して、必要なところは書き写し終えた。やれやれと背伸びをしていて、ケータイがピコピコと光っていることに気がついた。

 図書館にいるのである。もちろんマナーモードにしていた。時間を見ると午後2時30分をまわっている。3時間も集中してしまっていた。電話を掛け直してみると「ワルシャワさん、会議が終わってしまいましたよ」とのこと。あらららら、会議をひとつすっぽかしてしまった。

 まぁ公的な会議ではなかったのでどうということはないのだが、それでも他の役員さんたちは忙しい中を集まっている。これは失礼をしたわい。早速、会議の委員長には電話を入れて謝っておいた。

 それにしても脳というのはいいかげんなものですな。というか正直なものである。ワシャはその非公式の会議が嫌いなのである。先日も会議があったのだが、あまりの悠長さにゲロを吐きそうになったくらいだ。前にも書いたけれど15分で終わる内容を延々と2時間近くもやっているようなことで、会議中に気が遠くなることもしばしばあった。

 でね、その会議が午後からやると聞いていた。もちろん2つ持っているスケジュール帳のどちらにも記載してあるし、会社のスケジュールにもでかでかと書いてある。

 にも関わらず、「昼飯を兼ねて調べ物をしよう」と思ったら、もうすっかりと忘れてしまったんですね(笑)。本を読みだしたら、もう本の中に引きこまれてしまって、これはつまり八木先生がいけないということになるのか、そんなわけはないが。

 気がつけば、会議は終わっていて、ワシャは行方不明として指名手配がかかっていた。たまたま、背伸びをしたときにケータイピコピコに気が付かなければ、そのまま完全に忘れ去っていただろう。

 脳というのは、ことほど左様にいい加減なものですな。完全に言い訳でした(笑)。