会議の続き

 X氏の話の続きである。

 X氏、昨日も大きな会議があった。X氏、先日の会議で大トリを飾っている。もう普通なら出番がなくてもいい。まったく発言をしない人もいるのだから、X氏ばかりが目立ってしまってもねぇ。

 昨日は先日の会議とは色合いの違うもので、どちらかというと細々とした話柄が中心となる。だからX氏はあまり興味を示していなかった。

 ところが・・・。

 社外役員にも派閥があって甲派、乙派、丙派、丁グループなどに分かれている。甲派は社長与党で最大会派である。乙、丙、丁などは少数あるいは単独で、会議での質問も毎回実施している。甲派は人数が20人近くいて全員が毎回というわけにはいかないし、年配の役員の中には面倒だから質問には立たないという人もいる。だから、必然的に野党役員の質問回数が増えることになる。

 このことを憂えた会長からX氏に相談があったという。

「野党役員から、甲派は会議中になにも発言しないと指摘されている。なんとかX君、次の会議でも意見表明をしてくれないか?」

 X氏、沈着冷静な男だったが、内心は「ええええ!昨日、20分もやったところじゃないですかーーー!」と叫んでいたことだろう。

 しかしX氏、「会長、私ばかりが目立ってもよくないじゃないですか?」とやんわり断ったのだった。

「今回の貧弱な議題ではなかなか議論の端を見つけ出し、それを説得力のある質問にするのには経験がいる。甲派の存在感を増すためにも一肌脱いでくれないか」

 そうまで言われちゃあ・・・ということでX氏、再度質問に立ったのだった。

 質問の取っ掛かりは、小さな補正予算。凸凹商事の予算規模からみればどうでもよさそうなものである。しかし敢えてそれを取り上げて、そこから全体の予算の使い方の方法論まで拡大していく。要するに「必要なところにピンポイントで潤沢な予算を投入せよ」ということだった。他の役員が「全体的に薄撒きに使え」と言っているのとは対照的な話である。

 割と予算規模の大きい凸凹商事であるが、さすがに今回の武漢肺炎禍ではかなりの影響が出ている。準備資金も投入して財布の中はかなり涼しい状況だ。

「薄撒き、ばら撒き」は全体的なイメージはいい。関係者が等しく利を得られるからね。国のやった国民全員に10万円と同じである。だが戦略的にはそれはよくない。例えば先の大戦ガダルカナルの戦いである。日本軍が兵力を分散投入、薄撒きにして兵力を小出しにしたために、日本の大敗北に終わった。こうなってはいけない。

 そんな思惑があって、X氏は質問を練るにあたり、財政部局の幹部とかなり綿密に打ち合わせをしていたという。

「社長のためにも格好のいいことをやりたいですが、すでに武器弾薬も底をつき始めています。この時期にばら撒きを言い出してくる役員もいるかもしれません。そこに先手を打っておきたい」

 幹部の言を受けて、そんなニュアンスも質問に織り込んだ。そうしたらやはり後段で「ばら撒きを」という意見も出てきて、先手を打っておいただけに幹部はホッと胸をなでおろしたのだった。

 会議といってもいろいろとおもしろいものですね(笑)。