土曜日の夜、綾瀬はるか主演の「今夜、ロマンス劇場で」(2018年)が放映された。綾瀬はるかは、今、日本映画界にとっては至宝のような存在なので、映画の内容はともかくも確認することにしている。とくに、この映画は綾瀬がオードリー・ヘプバーンを意識しているので、ヘプバーンファンのワルシャワとしては、見逃せないのであった。これね。
http://wwws.warnerbros.co.jp/romance-gekijo/
綾瀬はるかファンにとっては十分な仕上がりだろう。綾瀬だけを観ていればいいんだからね。しかし、映画に一家言を持っているワルシャワには、いろいろと不満の残る映画であった。
まず物語が甘い。冒頭の設定が大雑把過ぎる。主人公(男)が愛してやまない映像の中の王女に恋をするのだが、その王女が突然スクリーンの中から飛び出してくる。そして二人はぎこちない恋をスタートする。そこからの物語の展開は、いい役者を配置し、丁寧にシナリオが紡がれているので、わりとおもしろい。ただし、イントロのシナリオが甘いので、結局、ベースに流れる通奏低音のような部分がボケてしまう。リアリティがないと言える。
いくら何でもスクリーンから美女は飛び出てこないでしょ。ワシャがヘプバーンファンで、「ローマの休日」を一万回見ても、アン王女は現れない。だからこそ、この物語の冒頭に少しばかりの工夫が必要だ。ヒロインの美雪が現世に現れる事情をきめ細かく組み込んでおかないと、後々のエピソードの感動が薄くなるからね。
ワシャのシナリオならこうだ。
この話をそもそも『夏目友人帳』
http://www.natsume-anime.jp/character/
の実写版スピンオフストーリーとする。
主人公は、そうだなぁ……西村悟か北本篤史くらいの脇役がいい。風采からすると北本だな。いかにも脇役っぽいひょろりとした助監督の牧野健司(坂口健太郎)がしっくりとくる。
冒頭の5分くらいで、夏目貴志(ジャニーズ系で気の弱そうな男子)とニャンコ先生(CG)を登場させて、北本(坂口健太郎)と映画館の前ですれ違わせる。
〇ロマンス劇場前
北本がチケットを買っている。通りかかるニャンコ先生を抱えた夏目。北本に気が付き、背後から肩をつつく。
北本「(はっと振り返り)おう夏目!」
夏目「また、映画か?好きだな、北本は」
北本「オレ、将来、映画をつくってみたいんだ」
ニャンコ先生「暇なやつだ。それよりも夏目、早く七辻屋に行くぞ」
二人と一匹の背後を通り過ぎる美雪(綾瀬はるか)。
北本「な・・・夏目、今、猫が中年のオッサンみたいな声を出さなかったか?」
夏目「い・いや、気のせいだろう。ちょっと買い物があるんで・・・」
ニャンコ先生を抱えて映画館の前から走り去る夏目。
〇商店街
ニャンコ先生を抱いて走る夏目。
ニャンコ先生「夏目、あの映画館には妖(あやかし)の気配があるぞ」
夏目「北本になにか悪いことが起きるのか?」
ニャンコ先生「いや、それほど悪い気ではなかった。おそらく大丈夫だろう。それよりも饅頭だ」
〇ロマンス劇場前
映画館に入る北本。その後で北本をじっと見つめている美雪。あとを追うようにして映画館に入る。
〇ロマンス劇場前
映画館から出てくる二十代半ばの北本。成長している。
てな具合でね、あらかじめ深雪を、夏目友人帳の中の「妖」であると決めておく。そうすればスクリーンの中から美女が飛び出しても「妖だからな」と観客は腑に落ちる。触れると消えるという設定も「妖だから消えるかも」と誘導できる。そうすると妖と人間の小さな恋の、実は大きな恋の物語として完成するのである。
いかがでしょうか。