視察にて

 午前中に、神田淡路町で仕事をしていた。12時過ぎに打ち合わせを終えて、昼飯を食おうということになった。オフィスのそばに「神田藪蕎麦」があることを思い出したので、そこに行こうということになった。

 ところが、水曜日定休でした(泣)。

いかん!「蕎麦を食おう」と思った瞬間に、完全に胃が蕎麦受入態勢をつくってしまった。こうなるとうまい蕎麦を手繰ってやらないと、ワシャの胃は納まりがつかないのである。

そうすると、蕎麦っ喰いの胃袋はすぐに対応策を提案してきた。

「室町砂場があるじゃぁないか」

 確かに、神田藪蕎麦から少し南に行けば「室町砂場」という名店がある。そば通で「ソ連」という蕎麦好きの会を主催されていた江戸風俗研究家の故杉浦日向子さんも、全国ベスト5に上げておられた。

そこにするべし、ということで、そちらに移動したのだった。

 

 いやー、室町砂場、お久しぶりでございます。もう12時半を回っていたので、空いているかと思ったが、混んでいましたぞ。

 いただいたのは、さらしなの天ざる。天といっても、シイタケの上で海老が反っくり返っているような天ぷら蕎麦ではありません。深めの小鉢の中の温かい蕎麦汁(つゆ)の中にかき揚げが浮いているだけ。それに真っ白なさらしなをつけてズルルッといく。おおお、甘みのある蕎麦に合わせて、すっきりとした甘口の汁が粋でゲス。口当たりのいいことは、さらしなだから言うまでもなく、それはそのままのど越しのよさにつながっている。これ冗談のように聞こえるかもしれないけれど、30分後くらいに日本橋のあたりを歩いていて、その口当たり、のど越しが甦ってくるからおもしろい。いい蕎麦ってぇのは、こういうことが起きるんでゲス。

 

 その後、もう一仕事を済ませて、空っ風に追われるようにして、三河に帰ってきたのだった。疲れた。しかし収穫の多い3日間だった。

 

 おまけとして2日目の話を記しておく。

 仕事は岩手県の花巻の北。某施設の見学を含めたレクチャーを3時間ほど受けるというものだった。そこはかなり注目の施設で、ワシャのグループを含めて4つの団体が集っていた。総勢30人のちょっとした後援会の様相を呈している。

 のっけに、主催者がこう言った。

「今日の予定は、まず90分の説明をパワーポイントでやります。その後、質疑の時間を取って、最後に施設を見ていただいて解散ということにします。なお、今日は、視察人数が多いので現場見学中の質問は限定的になることを了解して欲しい」

 要するに30人で施設を回ると、どうしても集団が長く伸びてしまう。案内は一人で行うので、口が全体をフォローできず、質問を受けても、全体で共有することができない。そのことを最初に逃げを打っているわけだ。

 凸凹商事でも視察をそれこそ山のように受けてきたが、視察者の人数が増えれば、こちらの対応人数も増員してきた。そうしないと見学中の質疑が疎かになるからである。パワポやペーパーでの説明は、基本的なことにならざるを得ない。やはり現地現物を見て「?」と思うことがあり、そこで具体的な質問も生まれるというものであろう。その大切な現地案内を1人でやると言っている。30人なら少なくとも5人は必要だ。それを1人というのは、いささか無理がある。

 それに、ここの施設見学は有料なんですよ。資料代として1人3000円も取っているんですぜ。それでこの対応では失礼ではないかいな・・・ということで勇躍ワルシャワが手を挙げたのだった。

「すいません、私たちは、いくつか質問や疑問を持ってここへ来ています。施設を見ながら、質問ができないということであれば、それでは目的が達成できません。時間的、人的なこともあろうかと思いますが、それでは施設を見学させていただいた後に、ここで質疑応答としたらいかがでしょうか?」

 これには主催者が青くなった。今までスケジュールをたがえて視察の受け入れなどしたことがなかったのだろう。しどろもどろで、しかし結局、「説明―質疑応答―現場視察―解散」は譲らなかった。

 実は、ワシャは昼食を食べた後、すでに10haあるこの施設をぐるりと回って来ていた。資料は事前にデータでもらっていたので、それを見ながら駆け足で見ているのだ。だから施設のおおよそは把握している。だから施設見学をしなくても質問はたんまりと仕込み済みであった(笑)。

 さて、手慣れた講義が始まった。どこから来たのか知らないけれど、胸に燦然と輝くバッチを付けたオッサンたちは、のっけから舟をこぎ出した。おまえら、なにしに岩手の奥まで来ているの?ケータイを鳴らすオッサンもいたし、途中で退席するオッサンもいる。講義を最前列で真面目に聴いているのは、ワシャのメンバーばかりだった。あいつら見直したわ。

 そして質疑の時間とあいなった。次々と手が上がる。それは、ワシャの仲間ばかりであった。8割がワシャのメンバー、2割が他のグループといった割合ですね。ホント、見直したわ。

 それで最後にワシャが手を挙げたとき、主催者の顔が引きつった。「またあんたかいな」と顔をいがめたら、そりゃ視察者に失礼でしょ(笑)。

 その後、施設を回ったが、さっきまで寝ていたオッサンたちが、主催者の周囲を固めて「この魚はなんちゅう名前だっぺ?」とか「この柱はなにを使っているちゃ?」などの他愛もない質問をされていた。

 ワシャの胸には「チコちゃん」のピンバッチが付いている。

「ボーッと視察しているんじゃないよ!」

 

 視察のリポートでした。