サバイバル

 ただ手をこまねいていては社会の安全は保てない。掛け替えのない命は守れない。だったらどうするか。

 まず、今回の犯人も、18年前の宅間にしても、凶行の前に必ず異常行動があった。それを見落とさない。その情報を地域社会や警察が共有して持っていることである。今回の岩崎にしても、地域では異常なヤツだった。そのことを警察がマークするくらいしか予防策はなかろう。

 

 柘植久慶『サバイバル・ブックス』(小学館)には、自然災害から犯罪まで、危機を生き延びる方法と心構えが記されている。ナイフで襲ってくる暴漢対策も書いてある。しかし、背後から刃渡り30センチの刃物で音も立てずに襲ってくる危痴害対策は書いていない。柘植さんほどのプロフェッショナルでも防ぎようがないのである。他の本

『この方法で生きのびろ!』(草思社

『テロ対策入門』(亜紀書房

『個人の危機管理術』(中央公論社

『安全防犯生活術』(永岡書店)

にもあたって見たが、今回の岩崎対策はどこにも載っていなかった。

 

 こうなると冗談抜きで「ゴルゴ13」に頼るしかない。ゴルゴは、自分の死角(背後)に人が忍び寄ることを極端に嫌う。だから偶然にそうなった場合にも攻撃を加える。部屋の中で依頼主と交渉する場合でも、必ず壁を背にして立っている。後ろに人の立つことを許さない、これは徹底している。

 もちろん今回の事件で、現場にゴルゴが居合わせれば凶行は未然に防げただろうが、そんなマンガのようなことは現実には起らない。

 

 でもね、大人たちが持っている感性を研ぎ澄ますことはできる。いくら岩崎がその存在を隠そうとしても、坊主頭で黒ずくめに黒手袋、これだけでも異様だから、少し気配りの働く人なら、「なんだ?あの男は」と注意を引かれるだろう。いわゆる気配を感じるというやつだ。そのうちにリックサックから刃渡り30センチの包丁を出せば、どう見ても尋常ではないことが理解できる。視線を移動させれば、その先に子供たちがいることも見えただろう。そこまで視認できたなら、その人のとる行動はひとつ。

「おーい!みんなの後ろに危痴害が刃物をもって立っているぞ!逃げろ!」と大声で子供たちに警告を発する。大騒ぎをして、子供たちに背後の異変を知らせる。何度も何度も大声で子供たちに呼びかける。まわりになにかモノがあれば、それらを蹴散らしたり、壊したりしてもいい。投げつけられるものがあれば、危痴害にぶつけるのも有効だ。もしかしたら危痴害はこっちに向かってくるかもしれないが、それはそれで対処の仕方がある。暴漢と正面から渡り合う方法は、『サバイバル・バイブル』にも記載されているからね。

 

 明らかに社会から変質して見えるものには常に注意を払うこと、これが重要ではないだろうか。