本の旅人

 書店にいくと無料で手に入る各出版社のPR本だが、これがなかなか読みごたえがあるのだ。このことはたびたびここで言っている。角川書店のPR誌「本の旅人」では、毎回、中野京子さんの「怖い絵」シリーズを楽しみにしている。5月号では、グッドールの「チャールズ一世の幸福だった日々」が取り上げられた。この絵ですわ。

https://www.sankei.com/life/photos/170921/lif1709210004-p1.html

 のどかに舟遊びをするイングランド国王一家が描かれている。この絵だけを見れば、幸福な一家の一時を切り取った記念の絵ということなのだろう。ワシャも展覧会でこの絵と突然出くわしたなら、そう思う。それがダメだと中野さんは言う。

《つまり歴史を知らなければ、チャールズ一世の舟遊びも安徳天皇の笑顔も、ただの日常風景でしかない。知識があって初めて――タイムマシンで過去と未来を行き来したように――運命の非情さ、恐ろしさに慄然とするし、言い換えれば、創り手もそれを意図したことがわかる。》

 歴史を知ってこそ、絵の奥行きが見えてくるというのである。ううむ、確かにそのとおりだ。チャールズ一世の、この後の運命を知っているのと、知らないのとでは、まったく絵の味わいが違ってくる。

 そんなことが無料のPR誌から学べる。

 

 地元店舗のPR色がかなり濃い月刊「なごや」5月号でも、興味深い記事がある。俳人で元ボストン美術館館長の馬場駿吉氏と画家の堀尾一郎氏による「美術鑑賞の手引き」という対談があった。その中で「メメント・モリ」について話をしている。

《馬場:先生の作品に接するたびに、私はいつも「メメント・モリ=死を想え」という言葉を思い出すんです。人間には必ず終末がある。名古屋ボストン美術館にも終わりがある(笑)。》

 馬場さんがこんな俳句を作っている。

「剪って手にすればメメント・モリの薔薇」

 ワシャの退職のご挨拶葉書には、うっすらと骸骨を杖の上にかざした僧侶が描かれている。一休禅師を書いた。

「何れの時か夢の中にあらざる、何れの人か骸骨にあらざる」

 人生のすべてが夢の中にある。どんなひとでも骸骨となる死をかかえている。

メメント・モリ」だなぁ……。

 

 けっこうPR誌でも楽しめるでしょ。