万葉集

 父親の書庫に本を探しにいった。そうしたらテーブルの上に2冊の本が出してあった。とても古い本である。簗瀬一雄『萬葉集の鑑賞』(荻原星文舘)奥付には昭和23年7月とある。70年前の本だった。著者のサインも入っている。どうやらワシャの父が戦後間もない頃に著者からもらったものらしい。一昨日から話題の『万葉集』である。父親も気になって書庫の奥なら掘り出してきたんだね。

 もちろんそれが置いてあれば、ミーハーなワシャは披いて見ますわなぁ。

 本はすっかり茶色く変色をしていて、ページを繰るのにも気を使う。それでもね、内容はしっかりしていて、歌人ごとに章立てがしてあって、山上憶良大伴旅人の章を読めばきっちりと「梅花の宴」の話が出てきた。

 もう1冊は『文芸読本 万葉集』(河出書房新社)。こちらはさきの本より古くない。昭和54年発行だから、それでも40年前の本かぁ。それを読んでもね、やはり山上憶良の章に「梅花の宴」が記載されていて、これってけっこう万葉集を知っている人たちには有名な話なんですね。そしてここには「漢文の序は山上憶良の手によるものではないか」と書いてある。つまり「令和」は山上憶良の作った漢文から出ている可能性が高く、1300年の時を超えて、古の歌人の知性に現代の人びとが触れているわけだ。

 

 新元号によって、一時的にせよ日本人が『万葉集』に目を向けてくれることはとてもいいことだと思っている。

 

 司馬遼太郎も『街道をゆく』の中で『万葉集』についてページを割いている。「志賀の荒雄」という章があって、荒雄と呼ばれた船乗りの悲劇についてこう言っている。《かれもまた対馬島にゆくべく北上し、途中悪風に遭って消息を絶ったのだが、荒雄という志賀島の漁村の無名の庶民の非業の死と、残された者たちの悲しみが今日まで伝わっているのは『万葉集』という存在のもつ力の大きさといっていい。》

 もちろんこの文の後に、山上憶良も登場してくる。

 

 その他にも『万葉集』関連のいい本は多い。斎藤茂吉の『万葉秀歌』(岩波新書)、中西進『万葉の秀歌』(ちくま学芸文庫)、犬飼孝『万葉十二ヵ月』(新潮文庫)など、手軽に入手できるので、ぜひご一読を。