阿川弘之と司馬遼太郎

 阿川弘之の随想集に『故園黄葉』(講談社)がある。布の装丁で箱入りの立派な本である。たまたま、それを見つけてパラパラとめくっていたら、「司馬遼太郎追想」という随筆があったので、そうなると購入せざるをえない。

 さすが阿川さん、司馬さんの本質をきっちりと見極めていた。

《司馬さんは、短い淡いつき合ひしか無かつた相手に、あたかも親交を結んでゐたかのやうな錯覚を抱かせてしまう(中略)敢て評するなら非常な褒め上手であった。》

 鋭い。

 この追想の中に司馬さんの「言わでものこと」という短文の話が出てくる。酒席で司馬さんが哲学青年にからまれるという話なのだそうだが、残念ながらワシャにはそれを読んだ記憶が残っていない。仕方がないので、『司馬さんが考えたこと』(新潮社)全15巻の目次を確認してみたのだが、見つからなかった。阿川さんはどこでその短文を読まれたのだろう?

 ワシャは、司馬遼太郎に関しては断簡零墨まで集めておきたいと思っている。だから、書棚2つも3つも司馬作品、司馬関連本で埋まっている。『故園黄葉』ももちろん司馬関連の棚に挿した。

「言わでものこと」はどこにあるんだろう。

 

 ついでに触れておくと、この随想集には小津安二郎の話も出てくる。ワシャは昔から映画小僧で、邦画ではとくに小津監督の作品を高く評価し、何度も鑑賞してきた。だから小津について触れたところにも付箋が打ってあるんですね。

 司馬さんに関する文章があって、小津監督に触れたところもある。もうこの本は捨てられない。