帰り道

「大名古屋らくご祭」の帰り道のこと。仲間とともに金山駅前の居酒屋を出て、地下鉄、私鉄、JRと別れていく。ワシャはJRに1人で向かった。23時27分が出てしまった直後だったので、次の45分まで18分も待たなければならない。ううむ、まだまだ名古屋は大いなる田舎である。
 寒い日だったので、ホームの中でも一番風当たりの小さそうな階段下の乗車口を選んで並んだ。といっても電車が出た直後だったので、ワシャしかいないんですけどね。コートの襟を立てて、15分寒さに耐えるとするか。
 でもね直にワシャの後ろに並ぶ人が増えてきて、気分だけは人心地がついてきた。やれやれ。
スマホも持っていないし、手持無沙汰なので、JRのホームの北側にある私鉄のホームに佇む人を観察したり、背後で話をする男性2人組の話に聞き耳を立てていたりしていた。
 おや、この語り口や声音、なんだかワシャの後輩のMくんによく似ているなぁ。レールの先を見るようなフリをして少林寺拳法の必殺技「八方目」で背後を観察する。そうしたらね、Mくんの大きな顔がそこにあったのだ。
「お〜い、Mくん」と声を掛けると、Mくんは腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「金山の深夜の駅頭で、眼の前に忽然とワルシャワ先輩が現われるとは……」
 と、驚いていた。
 こっちもびっくりですぞ。まさか、こんなどんぴしゃりで、ワシャの息の掛かった凸凹商事の幹部社員に出会うとはねぇ。それも連れていたのが2日ばかり前にその父親と飲んでいた若手社員なのである。ううむ、悪いことはできないものじゃ(してないけどね)。

 おかげで電車を待つ時間も帰りの電車の中も退屈せずに済んだのだった。めでたしめでたし。