月曜日に読書会。
いつもなら、翌日の朝(火曜日)にはそのことを書くんだけど、時系列でいうと日曜日の中江有里さんの話を書き残していたので、そっちを先に書いていたら1日遅れてしまった。
課題図書は緒方貞子『満州事変』(岩波学術文庫)だった。かなり分厚い文庫で、メンバーの一人はその厚さでまいってしまって後書きしか読んでこなかったと言っていた。もうちょっと読んできてほしいところだが、この読書会は完読を条件としていないので、後書きだけでも許容する大らかな読書会なのだった。
『満州事変』は盛り上がった。未読のメンバー以外は、歴史に興味をもっている人で、もちろん一冊をきっちりと読み込んで参加している。ワシャも読書会に参加する際はなるべく読み通していくのだが、日曜日の喬太郎の反省会のおりに、パセリくんから「ときどき本を読まずにやってきて、自分の知識だけで読書会をかき回していく」と言われたので、今回はしっかりと読んでいきましたがな。そしたらね、こう言うんですよ。
「あれ、昨日は付箋が1枚もついていなかったのに、今はびっしりとついているね」
鋭いやつじゃ。日曜日の朝の段階でまだ「はじめに」しか読んでいなかった。だから落語会に持参して、寸暇を惜しんで読もうと思っていたのだ。しかし、喬太郎があまりにおもしろいので結局読めずに、帰宅してから日付が変わるまで頑張ったんですぞ。
そんなことはどうでもいい。『満州事変』の話だった。
おそらく「満州事変」という言葉は、ほとんどの日本人は知っている。それくらい有名な事変なのだが、しかしその全容については、これもほとんどの日本人は知らないのではないか。そういった意味では「満州事変」をあらためて勉強することができてよかった。ちなみに上記記載で『満州事変』と「満州事変」という2つの記載があるけれど『』は書名で、「」は事件名で書き分けている。
その「満州事変」である。満州事変というと「柳条湖事件」を指すと思っている人も多かろうが、これはあくまでも「満州事変」の発端の事件でしかなかった。事変はその後、柳条湖での爆発を理由にして軍を動かした日本(実質は関東軍)と満洲軍閥などとの間で発生した武力紛争のことで、発端から1年8か月の長きにわたる。それでも関東軍は1万4000ほどの兵員数で、6万から20万説まであるが、圧倒的多数の敵と戦い満州全土(日本の3倍の面積)を緒戦から5カ月で占領しているので、軍事的には大勝利と言っていい。
それもそのはずで、その時の関東軍の参謀は軍事の天才といわれた石原莞爾なのである。彼が幕中にあって敗けるどおりがない。日本の歴史の中でも群を抜いた参謀でであり、思想家であった。その彼が「満州事変」全体のシナリオを描いたのである。
石原は、5か月で満州をその手中に収め、アジアの合衆国・王道楽土の満州国を樹立するところまでに至る。どうですか、日本の歴史の中で外邦に国家を建てたのは石原莞爾をおいて見当たりません。男子とはかくあるべしを地でいったような好男子ではあ〜りませんか。
ところが、大陸では自由奔放に活動し、理想の国家まで立ち上げた石原だったが、日本陸軍という組織の中では、一軍事官僚でしかない。結局、事なかれの陸軍中枢に異動させられ、日本に戻されるのだが、石原の替わりに関東軍に配置されたのは、ビジョンのない己の出世しか頭にない軍官僚ばかりだから、石原の構想がとん挫するのは目に見えていた。
満洲にとって悲劇だったのは、みすぼらしい軍人の筆頭である東條英機が関東軍の参謀長になったことである。東條、秀才なんだが構想力が乏しい。その能力は田舎の役場の課長なみしか持ち合わせていないから、次々に失態を仕出かしで、石原が不拡大を唱えていた中国戦線を無意味に拡大させてしまった。
などなど、「満州事変」自体、長く大きな事変であり、ファクトも多く、登場人物も数多存在する。それぞれが「日支事変」、「大東亜戦争」へと続く歴史の中で、よきにつけ悪しきにつけ重要な役割を演じていくことになる。
そんなことについて、侃々諤々の議論をしたのだった。
ここからは蛇足。
今朝の朝日の経済面に《「みすぼらしくない人」で採用に変化》という妙な題のついた記事があった。東條のことを「みすぼらしい軍人」と書いて、その記事のことを思い出した。
実際には、みずほファイナンシャルグループが、「みずほらしくない人」を採用基準に掲げて、内々定を出した学生の資質を調査したところ、狙っていた「創造的思考力」の高い人材が多かった……という記事なんですがね。ワシャはてっきり「みすぼらしくない人」だと思ったのだが、東條と石原の写真なんかを見比べていると、みすぼらしくない石原のほうがいいと思えてしまうんですね。
嫌でしょ。偉くなったとたんに高級車を買って乗り回しているんだけど、ベルトの穴が割けていたり、ソックスの口ゴムが伸びきっている重役って(笑)。
もちろん上ばかりではない。人と交渉をして仕事をする人は、若いうちから身だしなみをきっちりしておく。洒落ろ、と言っているのではなく貧乏くさくするんじゃないよと言っている。ぜひ、石原莞爾の毅然とした風貌に接して、そのことを感じてほしい。